退職理由を残業代未払いとして会社都合で辞めることはできるのか?

2020年10月21日
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退職理由を残業代未払いとして会社都合で辞めることはできるのか?

本来支払われる残業代がもらえず、それが何度も続けば、退職して新しい職場を見つけたいと思うものです。

ですが、退職したときに、自己都合とされてしまうケースがしばしば見られます。会社都合による退職としてもらうことはできなくはありませんが、一定の要件を満たさなければいけません。

この記事で、なぜ自己都合とされてしまうのか、会社都合にするためには何が必要なのか、ベリーベスト法律事務所 松山オフィスの弁護士が解説しますので、よければ参考にしてください。

1、残業代未払いが発生する理由

そもそも、なぜ残業代の未払いが発生するのでしょうか。まずは、ありがちなケースを見ることにしましょう。違法性についても解説しているので、ご自身のケースがどれに当てはまるのか、照らし合わせながら読み進めてみてください。

  1. (1)悪質なケース

    残業代が発生しているのを知りながら、わざと出さないようにしているケースです。

    たとえば、会社の売り上げが悪いから、従業員の態度が気に入らないからなど、経営者の身勝手な判断で残業代を出さない事例があります。労働基準法では、残業代は1分でも超えたら発生し、会社は従業員に全額支給しなければならないと決められているため、このような手口は当然ながら違法です。

    また、残業は禁止としておきながら膨大な業務量を課し、タイムカードを打たせたあとに働かせる、家に仕事を持ち帰らせるといった手口を用いている会社もいます。こうした会社では、所定労働時間内に終わらないのは従業員の責任で、サービス残業は仕方ないという空気が流れていることも少なくありません。

    しかし、このように処理しきれない業務をわざと課し、その分の残業代を支払わないような手口についても、もちろん、違法です。

  2. (2)法律や制度の誤った解釈で発生しているケース

    会社が法律や制度の誤った解釈をしているために、残業代未払いが発生していることがあります。このケースでは、会社の言い分がそれらしく聞こえるのですが、実は法律違反をしていて、残業代をもらえるケースだったというパターンは少なくありません。典型的なフレーズを以下、ご紹介します。

    ●管理職だから
    よく聞くのが、管理職だから残業代は出ない、という理由です。これは労働基準法第41条で、労働時間や休日などに関する規定が適用されない労働者として、管理職(法律上は管理監督者)があげられているためでしょう。

    しかし、同条で規定されている管理職は、経営者に近い立場で仕事をこなし、残業代が出ない代わりに一般の社員よりも高い待遇を受けている人物を指します。したがって、管理職という肩書きを与えながら、実際は社員とほとんど変わらない立場(いわゆる名ばかり管理職)で働かせている場合に、残業代の支払いがないことは違法とみなされる可能性があります。

    ●年俸制だから
    年俸制だから、という理由で残業代を出さないケースも時折見られます。しかし労働基準法では、年俸制は残業代が出ないという規定はありません。残業代は月給制や時給制と同様に残業代を計算されるので、未払いは違法です。

    ●みなし労働時間制だから
    みなし労働時間制とは、あらかじめ労使協定で決められた労働時間(みなし労働時間)を、実際の労働時間とする制度です。この制度下では、たとえばみなし労働時間が8時間であれば、10時間働いたとしても2時間分の残業代は発生しません。

    しかし、業務量が明らかに多く、みなし労働時間内では終わらないような状況が常に続いている場合は、超過分が残業として扱われるときがあります。また事業場外みなし労働時間制では、事業場内で働いた時間があると、同じくみなし労働時間の超過分が残業扱いになることもあります。

2、「残業代未払い」を退職理由にすることはできるの?

労働基準法では、使用者は労働者に対して必ず残業代を支給しなければいけないと定められています。もし、長時間残業をしているのに給与が低い場合は、会社が法律に違反している可能性が高いでしょう。

では、そうした「残業代未払い」を退職理由にすることはできるのでしょうか。結論としては可能です。ただし、基本的には自己都合による退職となる傾向にあります。その理由を、会社都合による退職と比較しながら解説します。

  1. (1)自己都合による退職

    会社を辞めたとき、在職中に、ある程度の期間、雇用保険(失業保険)に加入していると、雇用保険の基本手当(失業手当)が受給できます。自己都合による退職なら、離職前の2年間のうち12か月以上加入していることが条件です。受給期間は最長で150日、手当がもらえるタイミングは離職した日の翌日から7日(待機期間)+3か月後となっています。

  2. (2)会社都合による退職

    会社都合による退職は、ハローワークでは、基本的に特定受給資格者とみなされます。この場合、雇用保険の基本手当は、離職前の1年間のうち、6か月以上雇用保険に加入していれば受け取ることが可能です。また、受給期間が最長で330日(就職困難者の場合は360日)、手当がもらえるタイミングも離職した翌日から7日後となっています。

    このように会社都合による退職だと、雇用保険の基本手当を、自己都合による退職よりも長期間、かつ早いタイミングで受け取れるメリットがあります。

    もちろん、こうしたメリットがなくても、退職理由が残業代未払いなのだから会社都合による退職が当然なのでは? と考えるかもしれません。

    ただ、会社側からすると、会社都合による退職は大きなデメリットです。たとえば、今後の信用問題や自社のブランド力に影響が及ぶことが考えられます。また、賃金の一部を負担してくれる国の給付金(雇用調整助成金や中小企業緊急雇用安定助成金)を受給できなかったり、満額もらえなかったりすることもあるため、会社側は、会社都合による退職はできる限り避けたいのです。

    そのため、たとえ残業代未払いが理由であったとしても、会社は自己都合による退職にすることが多いというわけです。

3、未払いの残業代を請求する方法

残業代未払いによる退職を考えているのであれば、会社への残業代請求を合わせて検討しましょう。労働者には残業代をもらう権利があり、その主張は当然のものです。主な流れをご紹介します。

  1. (1)残業代請求の主な流れ

    残業代請求をするときは、まず交渉に有利な証拠を集めることから始めます。

    ●残業代が未払いであることを示す証拠を集める
    証拠の種類は、大きく分けると、残業時間を証明するものと残業代発生の根拠を示すもののふたつです。

    残業時間を証明するものとしては、出勤時間や退勤時間を記録したタイムカードやパソコンの使用履歴、メールの送信履歴などがあげられます。残業代発生の根拠を示すものは、就業規則や給与規定、労働契約書、給与明細などです。もちろん、これ以外に、少しでも証拠となりそうなものがあれば、一緒に用意してください。

    ●残業代を支払ってもらうように会社と交渉する
    証拠を集めたら、上司や経営者に対し、残業代が未払いである事実や違法性を説明し、支払いの交渉をします。交渉では、会社側がどのような対応をしたのか残しておくために、メールで行うといいでしょう。直接話し合いをする場合は、会話のやり取りを録音するために、ボイスレコーダーを準備しておくことをおすすめします。

    ●労働審判や労働訴訟をする
    会社との交渉がうまくいかなかった場合は、裁判所に間に入ってもらい、解決を目指します。

    最初は、労働審判に臨むのが一般的です。労働審判とは、会社との交渉の場に、裁判所に任命された労働審判委員に入ってもらう手続きを言います。労働審判は、3回の審理で終わらせなければいけないというルールがあり、スピーディーな解決が期待できるのがメリットです。

    労働訴訟は、いわゆる裁判のことです。労働審判が先行した場合、会社が異議を申し立てたときにはこの裁判の手続に移行します。残業代がもらえていないこと、それが違法であることを法廷で主張し、裁判官に認めてもらえれば会社に残業代を支払わせることができます。

  2. (2)「残業代未払い」を理由にした退職を会社都合による退職にするための条件

    前章でも紹介したように、残業代未払いを理由にした退職は、自己都合による退職となる傾向にあります。

    ただし、会社が法律に違反しているとみなされれば、ハローワークで会社都合による退職に変更できる可能性もなくはありません。

    たとえば退職直前の6か月以内において、3か月以上連続で月45時間以上の残業した、連続する2か月から6か月までの平均残業時間が80時間を超えたなどのときは、会社都合になる場合があります。

    残業代請求のための証拠を集めるときに、それらを示すものも一緒に揃えておくといいでしょう。

4、未払い残業代請求を弁護士に依頼すべき理由

実際に残業代の請求をする場合は、なるべく、はやめにすることをおすすめします。残業代には消滅時効があり、最後の未払い日から2年(令和2年4月1日分からは3年)を過ぎると請求ができなくなってしまうからです。

ただ未払いの残業代を請求するタイミングは、退職する前と退職したあと、どちらのほうがいいかは状況によりけりです。たとえば、退職する前は、残業代請求や会社都合による退職にするための証拠が集めやすい、会社とすぐに交渉できる、などのメリットがあります。ただ、会社と交渉したことでいづらくなる可能性がなくはありません。

一方、退職したあとに請求する場合、交渉が難航すると、そのまま裁判になるのが一般的です。このとき、労働者は残業代だけでなく、残業代と同等の額である付加金(裁判所の命令によって支払う金銭)を求めることができます。

また退職後の場合、残業代支給が遅れたことに対して発生する遅延損害金の年利が、14.6%(退職前は年利6%)と高額です。裁判が長引けば長引くほど、会社の支払額が大きくなるため、早々に会社が支払いに応じてくれることもあります。

このように双方にメリット・デメリットがあるので、どちらがいいのか判断に迷う場合は、一度弁護士に相談するといいでしょう。労働問題を取り扱う弁護士なら、状況を聞いて適切な対処方法をアドバイスが可能です。また何が有効な証拠か熟知していて、法的な知識も豊富なので、万が一裁判となった場合も、労働者が有利な立場になるように主張できます。

5、まとめ

残業代未払いを理由に退職を考えたときは、ふたつの行動を視野に入れるようにしましょう。すなわち残業代の請求と、退職理由を会社都合に変更するための手続きです。

ただ、これらをスムーズに行うためには、法律に関する知識が必要となります。不安な場合は、ベリーベスト法律事務所 松山オフィスの弁護士にご相談ください。実態を詳しくお聞きした上で何から始めるのがベストなのか提案するとともに、精神的な負担が少しでも軽くなるように、証拠集めや交渉、裁判のサポートをいたします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています