退職金を払ってもらえない! 労働者から請求する方法を弁護士が解説
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令和2年12月、懲戒解雇および退職金の不支給を受けた従業員が会社に対して退職金の支払いを求めた裁判において、高松地裁は所定の退職金の3割分について請求を認容する判決を下しました。なお、会社側は判決を不服として高松高裁に控訴しています。
このように、会社に解雇された場合も退職金の支払いが一部認められることもあります。なかには、トラブルを起こして会社を退職させられ、退職金の不支給に困っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。また、何らトラブルを起こしていなかったとしても、退職金を支払ってもらえない、という方もいるかもしれません。
ここでは、会社から退職金を払ってもらえない場合に労働者ができることについてベリーベスト法律事務所 松山オフィスの弁護士が解説していきます。
1、退職金制度とは
そもそも、退職金制度の正式名称は「退職給付制度」といい、支給形態によって「退職一時金制度」と「退職年金制度」に分けられます。
退職一時金制度は、退職金を退職時に一括して会社から支払われる制度のことです。その一方で、退職年金制度は一定の期間をかけて一定額を年金として支払う制度をいいます。
ただ、会社の退職金の支払い義務については、法的な定めはありません。そのため、会社によっては、退職金制度をそもそも設けていないこともあります。
また、退職金制度を導入している会社でも、退職金は労働者に対する労働の対価の意味合いであったり、賃金の後払いの意味合いであったりと、会社によって性質が異なることがあります。
2、退職金の種類
退職金は主に、以下の4種類にわけられます。
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(1)内部留保型
内部保留型では、退職金規程で定められている退職金額を、労働者が退職した時点で会社が支払います。
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(2)企業年金型
企業年金型では、退職金の積み立てを企業とは別に設けます。基金型確定給付企業年金など独立した法人との契約に基づき、労働者に対して退職金が支給されます。
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(3)共済型
共済型は、外部の共済に退職金となる資産の積立と管理を任せる方法です。共済型に加入した共済契約者は毎月定期的に掛金を入金し、共済者には共済証紙が渡されます。
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(4)確定拠出型
確定拠出年金型では、確定拠出型年金の運用方針や運用する商品(株)は労働者が自ら決定することができます。受取時は、掛け金に加えて運用商品の利益分が加算され、支払われます。
3、解雇されたら退職金はもらえない!?
退職金は、従来から存在する内部保留型の他、最近では自分で退職金の運用商品を決定する確定拠出型年金など色々な種類があります。
では、もし会社から解雇されてしまった場合、退職金はもらえないのでしょうか。
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(1)退職金の支払い義務
先述のとおり、退職金について法律上は、会社に対して義務付けられてはいません。しかし、会社と労働者間で退職金を支払うという労働契約を結んでいる場合は、会社に支払い義務が発生します。
労働基準法では、「退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項」(労働基準法89条3号の2)を就業規則に記載するものとされています。
また、就業規則等で退職金の支給条件を定めている場合、退職金は賃金とみなされます。
労働基準法では、「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」(労働基準法第11条)と定められています。
そのため、就業規則等に退職金の支給が明記されており、支給条件を満たしている場合、会社に対して未払いの退職金を請求できます。 -
(2)懲戒解雇での退職金の支払い
では、労働者が規則違反や懲戒解雇となった場合、退職金の支払いは行われるのでしょうか。
就業規則等であらかじめ懲戒解雇では退職金を支給しないと定められている場合であっても、直ちに全額の不支給が認められるわけではありません。懲戒解雇を有効としつつ、退職金を不支給とするには、それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要であると判示し、3割の支給を認めた裁判例もあります。
4、未払い退職金を請求する方法
次に、未払いの退職金を会社に請求する方法について確認していきましょう。
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(1)退職金請求の証拠を収集する
まず、未払い退職金を請求するためには、退職金を請求する権利が労働者にあるということを証明しなくてはなりません。
● 労働契約に関する証拠
会社と労働契約があったことがわかる労働契約書や雇用契約書を集めます。契約書がない場合は、「労働条件の通知書」を用意しましょう。
● 会社の支払い義務を証明する証拠
次に、会社の退職金支払い義務を証明する証拠を集めます。具体的には、退職金について明記されている「就業規則」「退職金規程」です。労使慣行などで退職金が支給されている会社の場合は、過去に退職した労働者の退職金の支給明細などが証拠となり得ることもあります。
● 退職金の支給基準をみたしている証拠
その他にも、退職金の支給条件を満たしていることがわかる証拠を集めます。勤続年数の条件がある場合、勤務していた間の給与明細なども用意しておきましょう。 -
(2)退職金を請求する
退職金の請求を行うための証拠を集めた後は、実際に会社に退職金の請求を行います。
ここで大切なことは、退職金の請求を行った証拠を残しておくことです。たとえば、労働者が会社に対して口頭で退職金を請求した場合は、後々に証拠が残りません。そのため、まずは会社に対して内容証明郵便を送付します。
内容証明郵便は、日本郵便がどのような内容を送ったのか証明してくれる郵便です。配達証明も一緒に付けることで、確実に会社側へ届けたことを日本郵便が記録してくれます。
これらを利用することで、郵便局に退職金の請求を行ったことが証拠として残ります。後で裁判となった際に証拠としても使用することが可能です。
また、時効を一時的に止めるためにも、内容証明郵便の利用をおすすめします。時効については、後ほど詳しくご説明します。 -
(3)労働審判手続の利用
内容証明郵便での通知を行った後も、会社から退職金が支払われない場合は、労働審判手続の利用も検討しましょう。
労働審判手続とは、労働者と会社の紛争に対して、原則3回までの期日で審理を行う手続きをいいます。話し合い(調停)が行われ、結論が出なければ労働審判委員会が判断(労働審判)を下し、解決を図ります。
ただし、労働審判の内容に不服がある場合は異議申し立てが可能で、その場合は強制的に訴訟手続へ移行します。 -
(4)裁判
労働審判でも解決しなかった場合は、最終的に裁判を検討しましょう。未払いの退職金を立証する証拠を集め、会社側と裁判で争っていくことになります。
5、退職金を請求するは時効にも注意が必要
会社への退職金の請求時には、時効についても意識しておかなくてはなりません。
退職金は会社を退職してから5年以内に請求をしなければ、権利が消滅してしまいます(労働基準法115条)。
ただし、時効の進行や完成を阻止する方法があります。それは、労働審判・調停・訴訟などを行うことです。
その他にも、内容証明郵便で会社に通知を送付することで6か月間は時効を中断することができます。確定的に時効を止めるためには6か月が経つ前に労働審判・調停・訴訟の手続を行う必要があります。
そのため、退職金請求を行う場合は、退職してから5年以内に、内容証明郵便を利用することが重要です。
6、まとめ
退職金は会社が必ずしも労働者に対して支払うべきと法律で定められているものではありません。しかし、退職金規程が設けられている場合や、労使慣行的に支給されている場合には、退職金の支払いの請求が認められることがあります。
未払いの退職金を会社に請求する場合は、まずは証拠を集めて内容証明郵便で通知を行い、それでも支払われない場合は労働審判や裁判に進むこともあります。
未払いの退職金でお困りの方はお早目にベリーベスト法律事務所 松山オフィスの弁護士にご相談下さい。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています