自宅待機を命じられたのに給与が支払われない! 法的対策はあるか

2021年02月22日
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自宅待機を命じられたのに給与が支払われない! 法的対策はあるか

昨今、新型コロナウイルス感染症が流行している影響で、会社から自宅待機を命じられるケースが珍しくなくなっています。愛媛県でも、新しく採用された一部の県職員が、感染拡大防止の措置として、入職するとともに2週間の自宅待機を命じられるケースがありました。

このように自宅待機を命じられた場合、一番気になるのはその間の給料でしょう。まったく支払われないとなれば、生活に大きな支障が出てしまいます。

この記事では、自宅待機をしたときに給料はもらえるのか、もしもらえるとしたら金額はどのくらいなのかなどを、ベリーベスト法律事務所 松山オフィスの弁護士が詳しく解説しています。万が一支払われていない場合の対策もご紹介しているので、困ったときの参考としてください。

1、自宅待機は2種類ある

企業に勤めていると、しばしば自宅待機という言葉を耳にします。「台風が接近しているので明日の午前中は自宅待機」「感染症の蔓延を防ぐためしばらく自宅待機」などはよく聞く例でしょう。

自宅待機とは、何らかの理由で自宅にいるように指示し、事業場や学校などに来させないようにする行為です。会社からの指示とはいえ、自宅にいれば基本的にどのような過ごし方をしてもいいため、在宅勤務とは異なります。

ただし、休暇や休日とは異なり、ある程度の行動制限があることが自宅待機の特徴です

会社が命じる自宅待機の場合、内容によって大きくふたつに分けられます。

●労務提供を拒否している場合の自宅待機
ひとつは、労務提供を拒否している場合の自宅待機です。自宅待機は、労働者に労働をしてほしくない(労務提供の拒否)ときに命じられることがあります

たとえば、「商品を生産するのに必要な機械が突如壊れて、業務ができなくなってしまった。従業員に来てもらってもさせる仕事がない」などのときです。これ以外にも「売り上げが急激に落ちたため」「感染症がはやっているため」という理由で命じられることもあります。

●業務命令としての自宅待機
一方、労働者が法律や就業規則に反するような悪質な行為をし、その実態を把握したり調査したりするために命じる自宅待機もあります。たとえば従業員の横領に対して、適切な懲戒処分を下したいので命じる場合などです。

2、自宅待機を命じた会社に給与支払い義務はあるか

自宅待機は、上記で確認したように、大きく分けて2種類あることがわかりました。

では、自宅待機を命じられた場合、従業員は賃金をもらうことができるのでしょうか。結論から言うと、もらえる場合もあれば、そうでない場合もあります。会社の給与支払いにおける義務の観点から、それぞれ詳しくご紹介します。

  1. (1)会社に給与支払いの義務があるパターン

    会社が労働者に対して賃金を支払う必要があるのは、その自宅待機に対して、使用者の責に帰すべき事由が認められるときです。労務提供の拒否であっても業務命令であっても、会社都合とみなされるなら、原則として労働者に賃金を支払わなければいけません

    ただし、個々の状況によって、支給される賃金の額が変わります。ここでおさえておきたいのが、次のふたつです。

    ●自宅待機を対象とした法律によるルール
    ひとつ目は、自宅待機を対象とした法律に、労働基準法第26条と民法第536条第2項のふたつがあることです。両者とも、その自宅待機が使用者の責に帰すべき事由に該当する場合、賃金を以下のように支払う必要があると定めています

    • 労働基準法第26条……直近3か月の平均賃金の60%(いわゆる休業手当)を支払う必要がある
    • 民法第536条第2項……賃金を100%支払う必要がある


    そのため、事業主の都合で自宅待機をさせられたときは、基本的には賃金の全額をもらうことが可能です。

    ●労働者が合意している場合は、民法よりも会社の任意規定が優先される
    ふたつ目は、就業規則や雇用契約で具体的な金額が定められていて、労働者がそれに合意しているときは、民法が定める金額ではなくその金額(割合)に準じることです。

    たとえば、「会社の都合で自宅待機をさせた場合は、平均賃金の80%の賃金を支払う」と就業規則に記されていたら、支給額は100%ではなく80%となります。

    ただ、就業規則や雇用契約に対する合意によって排除できるのは、民法の適用のみです。労働基準法はいかなる場合も適用されるので、平均賃金の60%未満としている就業規則は無効とされる可能性が高いでしょう。仮に合意していても、60%分を会社に請求できる可能性があります。

  2. (2)会社に給与支払いの義務がないパターン

    会社に給与支払いの義務がないのは、基本的に使用者の責に帰すべき事由に当てはまらないときです。

    たとえば労働者の責に帰すべき事由で自宅待機した場合、もらえない可能性が高いでしょう。あきらかに仕事をサボった、職場の風紀を乱すような言動を繰り返したなど、就業規則に違反するような行為が理由で自宅待機を命じられた場合、賃金をもらうことは難しいといえます

    また、都道府県知事が行う就業制限を理由とする場合も、使用者の責に帰すべき事由にあたらないとされます。

    たとえば、新型コロナウイルス感染症にかかった場合、感染者は都道府県知事から働いてはならないと通知されます。これによって自宅待機をした場合、基本的には会社に責任はないとみなされるので、賃金の請求はできません。

    そのほか、賃金支払いの義務がないパターンとしてあるのは、台風や地震などの天災による自宅待機です。たとえば地震によってオフィスが倒壊した、台風によって大規模な停電が起こり業務を行うことが不可能である、などのときは賃金の請求ができないとされます。

3、会社が給与を支払わないケースとは

自宅待機を命じられたとき、その理由が会社都合であれば、労働者は少なくとも60%以上の賃金をもらうことができます。

しかし実際には、それが実現されていない事例がしばしば見られます。ここでありがちなケースと違法性をご紹介しましょう。

  1. (1)個人的・感情的な理由で支払わない

    上司や経営者が「言うことを聞かないから」「嫌いだから」という個人的・感情的な理由で自宅待機させ、かつ賃金を支払わないことがあります。

    しかし、自宅待機に至った理由が就業規則に反しているなど合理的なものでない限り、その自宅待機は使用者の責に帰すべき事由となることがほとんどです

    そのため、賃金を支払わないのは法律違反となる可能性が高いでしょう。

  2. (2)経営不振や会社倒産を理由に支払わない

    経営が悪化したからという理由で自宅待機を命じ、その分の賃金を支払わない企業がいます。

    ですが、売り上げが芳しくないからといって、一切の給与を支給しなくてもいいわけではありません。仮に不振が続いて財政破綻に陥り、倒産をしたとしても同様です。

  3. (3)雇用形態を理由に支払わない

    ときおり、「正規雇用労働者には休業補償が出るが、非正規雇用労働者(契約社員や派遣労働者、アルバイトなど)には出ない」というケースがあります。

    しかし、自宅待機の給与にかかわる2種類の法律は非正規雇用労働者にも適用されます。したがって、雇用形態を理由に支払わないのは法律違反です。

    また、令和2年4月1日にはパートタイム・有期雇用労働法が施行されました(中小企業の適用は令和3年4月1日)。

    この法律では、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間で合理的ではない待遇の差を設けたり、非正規雇用労働者に対して差別的な扱いをしたりすることを禁止しています

    そのため、たとえば、職務内容がほとんど同じなのに正社員の休業補償は平均賃金の100%、契約社員は60%としている企業は、法律違反とみなされる可能性があります。

4、給与が支払われない場合の法的対策

最後に、給与が支払われない場合に、こちらで取ることができる法的な対策をご紹介します。

  1. (1)未払い賃金を請求する大まかな流れ

    賃金の請求書を内容証明郵便で送ります。

    内容証明郵便は、それだけで解決できるものではありませんが、会社に交渉した事実を残すことができ、未払い賃金の消滅時効を止める(時効の完成猶予)ことが可能です。労働審判や裁判のときの有用な証拠にもなります。

    請求書を内容証明郵便で送付しても、一向に会社が対応してくれない、交渉が決裂してしまった場合は、労働審判手続きをするのが一般的です。

    労働審判とは、裁判所に任命された労働審判員を交えながら、会社と交渉を進める手続きのことをいいます

    3回の話し合い(審理)を経たのちに、審判員によって下される判断内容(審判)は、判決と同じ効力を持ちます。もし交渉に参加しなかった場合、一方の言い分に沿って審判が下されるため、会社も参加することがほとんどです。

    労働審判でも解決に至らなかった場合は、通常訴訟に移行します。

  2. (2)会社が倒産しているなら未払賃金立替払制度を利用する

    自宅待機中などに会社が倒産し、請求が難しい場合は、未払賃金立替払制度が利用できないか検討してみましょう。これは、一定の要件を満たした労働者に対して、国が未払い賃金の立て替えをしてくれる制度です。

    勤めていた企業が1年以上事業活動を行っていて、かつ法律上の倒産もしくは事実上の倒産をしている、申請者本人が倒産の手続きが行われる日の6か月前から2年の間に退職している場合に利用できます。

    なお、立て替えてくれる賃金の額は、未払賃金の額の8割(ただし上限あり)です。

  3. (3)困ったら弁護士に相談しよう

    会社に未払い賃金を請求するにしても、未払賃金立替払制度を利用するにしても、困ったら第三者に相談することをおすすめします。

    特に前者の場合は、民法や労働基準法の知識が必要となるため、相談するなら法的知識を豊富に持つ弁護士がいいでしょう。

    弁護士は、どんな証拠が必要なのか助言するだけでなく、相談者の事情に合わせてどんな方法で未払い賃金を請求するのがベストか判断し、アドバイスすることが可能です

    また交渉や裁判の手続きも代理でできるので、会社と直接争いづらい、でも話し合いを有利に進めたい、といったときの強い味方になります。

5、まとめ

自宅待機でもっとも大きなポイントのひとつは、それが使用者の責に帰すべき事由か、ということです。明確に会社都合による自宅待機と判断できる場合は、6割以上の賃金がもらえる可能性が高いでしょう。そこで万が一、未払い賃金が発生していたら、速やかに会社に請求することをおすすめします。

本文でも紹介したように、会社と交渉するのが難しいときは弁護士に相談するのがベストです。ベリーベスト法律事務所 松山オフィスでも、労働に関するご相談を受け付けているので、ご検討してください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています