こんな場合でも残業代は発生する!未払いの残業手当を取り戻す方法を弁護士が解説
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未払い残業代については、現在の日本の社会問題の1つとなっています。
「契約上、そもそも残業代は発生していないんじゃないか」
「管理職だから残業代は発生していないんじゃないか」
「固定残業代、という名目が給与明細にあるから残業代は発生していないんじゃないか」
「給料に残業代は含まれている、という説明を会社から受けた」
「残業はしたが、タイムカード等の記録を会社からの指令で残していない。請求できないんじゃないか」
こういった疑問を、思った事がある方も多いのではないでしょうか。
しかし、このような疑問を持ちながらも、勤めている会社に残業代請求をすると、人間関係が悪化したり、不利な状況になるかもしれないという不安から、残業代請求を行っていない方も多いでしょう。
そこで、ベリーベスト法律事務所 松山オフィスの弁護士が未払い残業代を取り戻す方法について、詳しく解説します。
1、残業代の基本的な考え方
初めに、「残業代の定義」について解説します。
自分が働いた分のうち、「どこから残業となるのか」「残業できる条件」「計算方法」について、知っておきましょう。
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(1)所定労働時間と法定労働時間
労働者の労働時間については、契約で定められることになる「所定労働時間」と法律上規定されている「法定労働時間」があります。
「所定労働時間」については雇用契約書や雇用条件明示書といった基本的には入社時に会社から労働者に示される書面によって規定されているものです。そのため、一概に判断することはできず、例えばパートタイマーの人とフルタイムで働く正社員との間では異なる場合があります。
これに対し「法定労働時間」は、労働基準法において規定されている時間、という意味になります。 具体的には、労働基準法32条・35条において、原則「1日8時間、1週間40時間」という労働時間が労働者に対して法廷の労働時間として定められています。
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(2)残業をするには三十六協定が必要
使用者(会社)が、労働者に残業を行わせる場合には、基本的に「三十六協定(通称:サブロク協定)」と呼ばれる労使協定の締結が必要になります。
この労使協定がない場合については、労働者は会社から命じられても、残業を行う必要はありません(違法残業、ということになります)。
実際に残業代が発生するのは、前述した「法定労働時間」を超えた分の労働時間、についてです。 ここでいう「労働時間」とは、使用者の指揮・監督命令下にある時間を意味します。
この労働時間が「法定労働時間」を超えている場合、つまり「1日8時間、1週間40時間」を超えて働いたときに、超過した労働時間が残業代(割増賃金)になると考えると分かりやすいでしょう。 -
(3)残業代の計算方法
次に、残業代の計算方法について解説します。
計算方法は月給制の方の場合、通勤手当や住居手当等は除いた上で、年収を算出しそれを所定労働時間の年間の合計で割り、時給を算出します。
以下の計算式で残業代は計算されます。
法定時間外労働
【算出された時給】×【残業時間】×1.25
(就業規則でそれ以上、との定めがあればその数字)
夜10時以降の勤務
【算出された時給】×【夜10時以降の残業時間】×0.25
休日勤務
【算出された時給】×【休日の勤務時間】×1.35
※休日の勤務時間は残業時間から引くことになりますし、休日勤務について深夜給は発生しないことに注意が必要です。
しかし、具体的な残業代については勤務状況や勤務形態により変わってきますので、ご自身では算出が難しい方も多くいらっしゃいます。 営業職やトラックドライバーなど、移動時間や外回りのうち、どこから残業なのか分かりづらい職業の方の場合は、特に算出が難しいでしょう。
弁護士が適切に計算すると、「自分が計算したより、実際には多くの残業代が請求できるとこが分かった」「これも残業に含まれるとは知らなかった」というケースもありますので、ご自身で計算するよりも、弁護士に計算を依頼することをお勧めいたします。
2、こんな場合でも残業代は発生する
いざ会社に残業代を請求しようとすると、以下のような様々な理由をつけて支払を拒否してきます。
しかし、本当にその理由は法的に認められるものでしょうか?
よくある会社側からの主張について、法的な目線からみていきましょう。
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(1)給料に残業代が含まれている
固定の給料に残業代を含むには一定の要件を満たす必要があります。
例えば就業規則等に明確に定められている、超過分について適正に清算手続きが行われているなどの裏付けとなる事実が必要です。 その理由もなしに「給料に残業代が含まれている」ということは認められません。
会社から「給料に残業代が含まれている」とのの説明を受け、労働者がこれに合意していたとしても、上記に述べたような裏付けとなる事実がない場合には、当該合意に効力は生じません。
つまり、社内規定で「給料に残業代が含まれている」とされていたとしても、労働基準法の方が優先されますので、認められないのです。
労働基準法は、労働者の生活の維持のため、強行法規としての性格を有しています。
これは、一般的に会社と従業員では会社の立場の方が強いため、弱い立場の従業員が一方的に過度に残業を強要させられることを防止するためです。
業務委託契約であれば話は別ですが、雇用契約である以上、残業代が発生しない、という合意は労働基準法に照らして無効となります。
そのため、「給料に残業代が含まれている」との会社側の主張を鵜呑みにしてしまうのは早計です。 -
(2)管理職だから残業代は発生しない
部長、店長などの役職の方の場合は、「あなたは管理職なので残業代は発生しません。」といった説明を受ける場合もあります。
労働基準法は41条2号で、「管理監督者」について、労働時間・休憩・休日に関する規定の適用除外を定めています。
しかし、この「管理監督者」とは、経営者と一体的立場にあり、職務内容や勤務態様が労働時間管理になじまないことから適用除外とされています。
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「管理監督者」とは
- ①
管理監督を行っていること
(部下の人事権を保有する等、職務内容・権限・責任からみて、労務管理上使用者との一体性があること) - ②
管理監督をされていないこと
(出退勤時間の拘束がない等、労働時間管理を受けない勤務態様であること) - ③
管理監督者に相応しい処遇であること
(時間外割増賃金に相当する管理職手当を支給されている等、基本給や手当面で相応しい処遇を受けていること)
上記の全てを満たす労働者に限られることになります。(※裁判例の用いている基準から判断)
有名な裁判例では、マクドナルドの店長もこの「管理監督者」には該当しない、と判示されました。
いわゆる、名ばかり店長のように「肩書だけ立派な役職をつけられている」というような場合には、残業代請求を諦める必要は全くありません。
会社からの説明に簡単に納得せずに、ご自身のおかれている立場・責任等から考えてみれば、実際に残業代請求を行うことができる余地は多分にあるといえます。 - ①
管理監督を行っていること
-
(3)固定残業代、という名目が給与明細に記載されている。
固定残業代が会社から支給されており、それ以上については残業代が出ない、というのはありがちな誤解です。
判例では
- ①通常の労働時間に相当する部分と割増賃金に当たる部分を判別することができること
及び - ②割増賃金にあたる部分が法定の割増率で計算した額以上であること
を要求しています。
つまり、給与の中に含まれる、という説明では①の要件を充たしませんし、実際の計算額が固定残業代を上回った場合にはその差額を請求することができます。 - ①通常の労働時間に相当する部分と割増賃金に当たる部分を判別することができること
3、残業の証拠を揃える
残業代を請求する際には、以下のような証拠が必要となります。
- タイムカード
- IDカード
- パソコンのログイン、ログオフの記録
- 業務中に送受信したメール
- 業務日報
- 手帳、日記
- 携帯電話通話履歴
- 携帯アプリなど
- 雇用条件通知書
- 雇用契約書
- 就業規則
- 賃金規程
- 給与明細
- 源泉徴収票
- 残業指示書、メモ等
これらの証拠がないと、会社に請求したとしても残業時間を証明できないため、「残業の事実はない」などど言われてしまえば、「残業していた」「残業していない」の水掛け論になってしまい、請求が難しくなるためです。 日頃から、これらの証拠をしっかりと残しておくとよいでしょう。
しかし、中にはこれらの勤務記録がはっきりと残っていない方もいるでしょう。
その場合には、どのように証拠をそろえたらよいのか、弁護士に相談をお勧めします。
これらの証拠がなくても、場合によっては、パソコンのログイン・ログオフの履歴や、PASMOやSuicaといった、電車の利用履歴なども場合によっては証拠と認められるケースもあります。
揃えた資料が証拠になりうるのか、弁護士が適切に判断いたします。
4、弁護士に依頼した場合の請求方法、期間、弁護士費用
弁護士に依頼すると
①任意交渉、②労働審判、③訴訟といった手段を取ることができます。
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(1)任意交渉
内容証明を送り、弁護士と企業側による交渉を行います。(場合によっては企業側の弁護士同士で交渉を行う場合もあります)
違法残業をさせている、という自覚があればこの段階で早めに手を打ってくる可能性があります。
この局面であれば、交渉ですので一定の証拠があれば請求することができる、ということになります。 -
(2)労働審判
任意交渉により解決が難しい場合には、労働審判によって解決を図る事が考えられます。 労働審判とは、労働者と使用者の紛争の解決を目的とした手続きです。
原則として3回以内の期日で解決が図られるために、早期解決することができる手続ですが、1回1回が勝負になりますので、事前にしっかりとした証拠を準備しておく必要があります。
3回しかない関係上、数ヶ月で決着がつき、労働審判での解決率は80%程度と非常に高いのが特徴です。 -
(3)訴訟
労働審判を利用しても、双方が納得することができず、解決に至らなかった場合には訴訟で企業側と争うことになります。一般の方がイメージされている裁判がこれに当たります。
裁判官による判決まで、数年~10年近くの長期間の戦いとなります。
もっとも、訴訟手続の中で、和解を勧められることもあり、結果的には裁判所を交えた話合いによる解決が図られるケースも多く見られます。
ただし、その場合でも半年程度はかかるのが通常です。
基本的に解決までの時間は、①任意交渉→②労働審判→③訴訟の時間で長くなっていくことになります。費用についても同様の順番で高くなっていきます。
ベリーベスト法律事務所では、①②③のそれぞれのお手続き前に、費用のお見積り・今後の流れ・かかる期間の見通し等について、しっかりと説明いたしますのでご安心ください。
上記の①②③以外にも、労働基準監督署による勧告やADRといって裁判外紛争手続を利用することも考えられますが、この場合はそれぞれの機関に沿った手続きや書面が必要になりますので、それぞれの機関の説明に沿って行動しましょう。
5、残業代請求を弁護士に依頼するメリット
ここまで本コラムをご覧いただいた方の中には、「自分で請求するか、弁護士に頼むか」を、迷われている方も多いでしょう。
その場合には、「自分1人で解決かできそうか」を考えてみましょう。
ご自身で残業代を請求し、会社側が素直に残業代を払ってくれるのであれば、それに越したことはありません。一番スピーディーで平和的な解決方法です。
しかし、残業代を払ってくれない会社のほとんどは、ご自身で会社に残業代を請求しても、訴えを無視したり、あれこれ理由をつけて残業代を払ってくれず、証拠の開示にも応じてくれません。
中には、残業の証拠隠滅を図ったり、残業代を請求したことで上司や社長に目をつけられ、不当な人事異動や解雇など、不利な状況に追い込んでくる悪質なケースもあります。
なにより、ご自身で請求しようとすると、証拠の資料収集・残業代計算・その後の手続き等に手間・時間がかかるだけではなく、直接上司や社長等と交渉せねばならず、精神的にも辛いものです。
弁護士が対応すると証拠収集の段階から弁護士の名前で請求しますので、会社側も本腰をいれて対処をせざるを得なくなり、従業員らの訴えを無視できなくなり、早期解決が図れます。
適切に、かつ確実に残業代請求ができるだけではなく、ご自身で残業代を計算したり、会社と直接交渉する必要がありませんから、心身ともに負担が最小限に住むというメリットもあります。
弁護士に依頼した場合にかかる負担は、基本的には弁護士と相談する時間と、弁護士費用のみです。
残業代請求の際には弁護士を利用することをお勧めします。
残業代請求の時効は2年です。こうして迷われている間にも、あなたの残業代は時効を迎え、どんどん消えていっているかもしれません。
「自分の残業代は少ないのではないか?」と思った方、残業代請求を迷われている方は、ぜひお早めにベリーベスト法律事務所 松山支店の弁護士へご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています