みなし残業とはどんな制度? 残業の仕組みや法律上のルールを解説

2020年11月12日
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みなし残業とはどんな制度? 残業の仕組みや法律上のルールを解説

企業の求人票や募集要項を見ると、みなし残業と書かれていることがあります。みなし残業とは、事前に決められた残業代を、実際の残業時間にかかわらず支給する制度です。労働者からすると、働いた時間が少なくても一定の賃金がもらえるというメリットがあります。

ところが、このみなし残業を悪用して、労働者を不利な立場に追い込む会社がいます。実際、気づかぬうちに残業代の未払いというトラブルが発生しているケースは少なくありません。

この記事では、ご自身の身を守れるようにするために、みなし残業の仕組みや法律上のルールを、ベリーベスト法律事務所 松山オフィスの弁護士が解説しています。どんな行為が法律違反なのかも説明しているので、就職した会社に対して不安を感じている方も、ご一読いただければ幸いです。

1、みなし残業代(固定残業代)とは

みなし残業代とは、実際の残業時間ではなく、あらかじめ決められた時間で計算した残業代を支給する制度です。

支給される賃金は、みなし残業代や固定残業代、定期残業手当とも呼ばれています。ここには、時間外労働(1日8時間・週40時間を超えて働くこと)、深夜労働(22時から翌5時に働くこと)、休日労働(法定休日に働くこと)に対して発生する割増賃金が含まれている、とみなすのが一般的です。

  1. (1)みなし残業代の仕組み

    みなし残業代制度が導入されていると、指定されている残業時間より実際の残業時間が少なくても、そのままみなし残業代が支給されます。また、みなし残業で指定されている残業時間より実際の残業時間が多いときは、その超過分を支給してもらうことが可能です。

    たとえば、求人情報で「みなし残業(20時間分の時間外手当として5万円を支給)」と書かれている場合は、残業時間20時間までは、実際の残業時間にかかわらず5万円が支給されることになります。

    したがって、実際の残業時間が15時間であっても支給額は5万円になります。逆に実際の残業時間が30時間の場合は、5万円に加えて、10時間分(30時間-20時間)の残業代を別途支給されることになります。

    みなし残業では、「みなし残業にすれば、どんなに残業させても支給額は一定」と解釈されることがありますが、それは誤りです。実際に超過分を支給しない場合は法律違反として会社に罰則が科される可能性があります。

  2. (2)みなし労働時間制との関係性

    みなし残業に似ている言葉に、みなし労働時間制があります。みなし労働時間制とは、あらかじめ決められた労働時間を実労働時間とみなし、賃金を支給する制度です。

    みなし残業は労働に関するルールを定めた労働基準法に記載されていませんが、みなし労働時間制は労働基準法第38条の2、3、4で決められています。似て非なるものですが、記事によっては、みなし残業=みなし労働時間制として解説されている場合もあるので注意が必要です。

    会社の求人情報や就業規則、あるいは他の記事を見るときは、みなし残業やみなし労働時間制という言葉が具体的に何のことを指しているのか、最初に確認するといいでしょう。

    なお、みなし労働時間制には、事業場外みなし労働時間制と裁量労働制の2種類があります。事業場外みなし労働時間制は、事業が行われている場所以外で働くこと(事業場外労働)で、労働時間の正しい算定が難しいときに導入される制度です。

    一方、裁量労働制は、さらに専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制のふたつにわかれます。前者は専門性が高い業務につく労働者に、後者は事業運営に関する企画や立案などをする労働者に適用される制度です。

2、募集要項に書いてある? 労働基準法におけるみなし残業

みなし残業は、前章で説明したように、労働基準法内で具体的に定められているわけではありません。ただし、みなし残業を労働内容とするには、事前に労働契約に盛り込むだけでなく、労働者の合意(その契約内容に納得してもらうこと)が必要です。そのため会社は、みなし残業の内容を、労働者に周知させる義務があります。

募集要項や求人票、就業規則などを見て、次の内容がきちんと記載されているかチェックしてみてください。

  1. (1)みなし残業代を除いた基本給の額

    みなし残業を労働内容に組み込むためには、基本給の定めにつき、通常の労働時間の賃金にあたる部分とみなし残業代にあたる部分とを判別することができることが必要となります。そのため、たとえば「基本給20万円」ではなく「月給25万円(インセンティブほか含む)」といった表記は、基本的にはNGです。

    なお、基本給とは、通勤手当や資格手当、インセンティブなど各種手当を除いた基礎賃金のことをいいます。

    就業規則の場合だと、基本給の項目は「各人別に決定する」といった文言にとどまり、具体的に金額が書かれていることはあまりありません。就業規則を作成するときの決まりが書かれた労働基準法第89条の中に、基本給の金額の記載に関するルールがないからです。すでに就職しているときは、毎月もらえる給与明細で確認するといいでしょう。

  2. (2)みなし残業代の額と労働時間数

    みなし残業代の額と、それがどのくらいの労働時間に相当するのかという具体的な数字も必須となります。具体的には「みなし残業代(時間外労働の有無にかかわらず、20時間分の時間外手当として5万円支給)」「固定残業代6万円(22時間分の時間外労働に相当)」などです。

    逆に金額や時間数がなく、単純に「みなし残業代支給」としか書かれていない場合は、気をつけたほうがいいでしょう。長時間残業をしたにもかかわらず、それに見合った対価がもらえないといった事態になりかねないからです。

  3. (3)みなし残業時間を超えたときに賃金を追加で支払う旨

    みなし残業では、実際の残業時間が事前に決められた時間数を超えると、みなし残業代とは別に残業代が発生します。これも従業員に周知させる必要があるので、求人情報などにきちんと記載されているか確認してみてください。

3、みなし残業に上限はあるの?

会社がみなし残業を採用したい場合は、労働者に、その具体的な内容がわかるように示さなければいけません。募集要項や求人票をみてみると、みなし残業時間として書かれている時間が、会社ごとに異なることがわかります。

では、みなし残業の時間数に上限はあるのでしょうか。

  1. (1)みなし残業時間は原則45時間以内

    みなし残業時間の上限は、原則45時間です。これは、働き方改革関連法が関係しています。

    すべての企業は、たとえ36協定を締結したとしても、労働者に45時間超の残業をさせることはできません。臨時的な場合でないかぎり、法律違反とみなされます。


    したがって、たとえば会社は、労働者のみなし残業の時間数を60時間にすること自体は可能ですが、実際に月60時間の残業を1年中させると法律に抵触する可能性があります。そのため、45時間以内が基本のルールとなっています。

    なお、36協定は、労働者の代表(もしくは労働組合)と会社の間で取り交わす労使協定のひとつです。

    労使協定は、労働基準法に即していると事業経営が難しいときに、イレギュラーな労働内容で運営するのを労働者と会社が確認し合い、書面を通して決めることをいいます。このうち、時間外労働や休日労働を定める労働基準法第36条に関わる労使協定が、36協定です。36協定を締結していないと、会社は労働者を時間外労働、休日労働させることはできません。

  2. (2)賃金に関する制限

    みなし残業では、時間については上限がありますが、賃金については逆に下限があります。みなし残業代をみなし残業時間(25%の割増率含む)で割って計算された1時間当たりの賃金が、最低賃金法が定める各地域の最低賃金を下回っているのであれば違法です。

    たとえば、みなし残業代が5万円、みなし残業時間が20時間の場合、1時間当たりの賃金は、5万円÷(20時間×1.25)=2000円となります。これは、愛媛県の最低賃金790円を上回っているので問題ありません。

    他方、みなし残業代が3万円、みなし残業時間が45時間の場合、1時間当たりの賃金は3万円÷(45時間×1.25)=533円となります。これは、愛媛県の最低賃金790円を下回っているので違法になります。

4、これって違法では? と思ったら、弁護士へ相談

みなし残業は、ここまで見てきてわかるように、労働基準法をはじめとするさまざまな法律で規定されています。

もし就職した会社で、決められたみなし残業時間を超える残業をしたのにもかかわらず支給額が少ない、そもそも就業規則に残業時間や金額が記載されていない、場合には、違法では? と疑ったほうがいいかもしれません。残業代が未払いになっている可能性があるからです。

会社は労働者に対して、きちんと残業代を計算し、それを含めた賃金を全額支払わなければいけません。実際に支給されていない場合は法律違反なので、毅然とした態度で請求したほうがいいでしょう。

ただ、会社によっては、未払いであることを知りながら、あえてそうしているところもいます。その場合、請求をしても聞く耳を持ってくれなかったり、事実と異なる主張をされるなど交渉が難航するかもしれません。

また、残業代の請求には、時効期間があり、最後の未払いが発生してから3年(令和2年3月31日までの分は2年)経過すると消滅してしまいます。

したがって、未払いが常態化しているなら、早めに弁護士に相談してみてください。会社によっては、弁護士が労働者に代わって交渉を持ちかけると、すんなり応じてくれる場合もあります。

なお、弁護士に相談するときは、事前に違法性がわかるような証拠を用意すると相談もスムーズに進むでしょう。就業規則や雇用契約書、給与明細のほか、出退勤記録やパソコンのログイン履歴、上司へ送ったメールなど残業をしたことがわかるものを、できるかぎり集めておきましょう。

5、まとめ

みなし残業は、一定時間分の残業代を事前に決めて、支給する制度です。しかし、決められた額さえ支払っておけば、何時間でも残業をさせてもいいというわけではありません。

もし募集要項や求人票を見て、本記事で紹介したような詳しい内容が記載されていない場合は、応募するかどうか慎重に検討したほうがいいでしょう。

すでに就職していて気になっている方は、就業規則や給与明細を見て、みなし残業の詳細を確認することをおすすめします。そこで、違法かもしれない……と感じた場合は、ベリーベスト法律事務所 松山オフィスの弁護士にご相談ください。法的な観点から会社の実態を調査し、未払いが生じているのであれば、取り戻すためのアドバイスやサポートをいたします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています