仮処分とは何か? その要件・効力・手続きを解説

2023年03月14日
  • 一般民事
  • 仮処分
仮処分とは何か? その要件・効力・手続きを解説

令和3年に松山地方裁判所で処理された民事事件は3389件であり、そのうちの2037件が強制執行事件でした。民事訴訟事件は651件、行政訴訟事件は18件、その他の事件は683件となっています。

他人との間で法律上のトラブルが発生した場合、民事保全の一種である「仮処分」を申し立てるべきケースがあります。仮処分申立ての成否は一刻を争うため、もし法律上のトラブルに巻き込まれた場合には、お早めに弁護士までご相談ください。

今回は「仮処分」について、仮差押えとの違い・種類・要件・手続きなどをベリーベスト法律事務所 松山オフィスの弁護士が解説します。

(出典:「松山市統計書(令和3年度版)」(松山市))

1、「仮処分」とは?

仮処分とは、民事保全法に基づいて裁判所が行う民事保全処分の一種です。

  1. (1)仮処分=民事保全処分の一種

    民事保全処分とは、訴訟の判決が確定した際、判決で定められた給付内容を実現できるように、あらかじめ現状を保全しておく処分のことです。

    たとえば、高価な絵画の所有者が、絵画を借りたまま返さない人に対して、絵画の返還を求める訴訟を提起するとします。

    この場合、訴訟の判決が確定する前に、被告が絵画を第三者に転売してしまったら、原告は絵画を取り戻せなくなってしまうおそれがあります。
    こうした事態を防ぐため、あらかじめ民事保全処分によって絵画の処分を禁止し、原告が勝訴した場合に絵画を取り戻せるようにしておくのです。

    物の返還を求めるケース以外にも、民事保全処分はさまざまな形で活用できます。
    具体的にどのような内容の民事保全処分が考えられるかについては、後述します。

  2. (2)仮処分と仮差押えの違い

    民事保全処分は、「仮処分」と「仮差押え」の2種類に大別されます
    両者の違いは、「被保全権利」の内容が異なる点です。

    被保全権利とは、民事保全処分によって実現を保全すべき権利を意味します。

    たとえば、絵画の返還を求める訴訟を提起する際に、絵画の処分を禁止する民事保全処分を求める場合、被保全権利は「所有権に基づく絵画の返還請求権」です。
    不倫慰謝料を請求する訴訟を提起する際に、被告の預貯金口座からの出金を禁止する民事保全処分を求める場合、被保全権利は「不法行為に基づいた損害賠償請求権」となります。

    民事保全処分のうち「仮差押え」は、被保全権利が金銭債権の場合に行われます

    <仮差押えの被保全権利の例>
    • 不法行為に基づく、損害賠償請求権
    • 債務不履行に基づく損害賠償請求権
    • 金銭消費貸借契約の終了に基づく貸金返還請求権
    • (労働者の)残業代請求権
    など


    これに対して「仮処分」は、被保全権利が金銭債権以外の場合に行われます

    <仮処分の被保全権利の例>
    • 所有権に基づく(物の)返還請求権
    • 平穏に生活する権利(接近禁止の仮処分申立てなどの場合)
    • 発信者情報開示請求権(プロバイダ責任制限法第4条第1項)
    など


    仮処分の被保全権利には、金銭債権以外の権利が幅広く含まれます。
    そのため仮処分申立ては、申立人(=仮処分債権者)の権利の実現を保全するために、さまざまな形で活用することができるのです。

2、2種類の仮処分とその要件・効力

民事保全法に基づく仮処分は、「係争物に関する仮処分」と、「仮の地位を定める仮処分」に大別されます。

  1. (1)係争物に関する仮処分

    係争物に関する仮処分は、被保全権利が金銭以外の物又は権利の給付を目的とする請求権である場合に行われます(民事保全法第23条第1項)。

    (例)
    • 所有権に基づく返還請求権
    • 所有権に基づく妨害排除請求権
    など


    係争物に関する仮処分は、さらに「処分禁止の仮処分」と「占有移転禁止の仮処分」の2種類に細分化されています

    ① 処分禁止の仮処分
    係争物に関する権利の処分を禁止する仮処分です。
    係争物の種類に応じて、以下の方法によって行われます。
    • (a)不動産の所有権登記請求権を保全する場合
      →処分禁止の登記をする方法(同法第53条第1項)
    • (b)不動産に関する所有権以外の登記請求権を保全する場合
      →処分禁止の登記および仮処分による仮登記をする方法(同条第2項)
    • (c)不動産以外の物に関する権利で、登記または登録を対抗要件または効力発生要件とするものを保全する場合
      →(a)と(b)に準ずる(同法第54条)
    • (d)建物の収去および敷地の明渡請求権を保全する場合
      →処分禁止の登記をする方法(同法第55条第1項)
    • (e)船舶に関する権利を保全する場合
      →航行のために必要な文書を取り上げて、保全執行裁判所への提出を命ずる方法(同法第52条第1項、第48条第1項)
    • (f)動産に関する権利を保全する場合
      →執行官が目的物を占有する方法(同法第52条第1項、第49条第1項)

    ② 占有移転禁止の仮処分
    係争物の占有を第三者に移転することを禁止する仮処分です。
    以下、いずれかの内容の仮処分命令が発せられます(同法第25条の2第1項)。
    • 債務者に対して係争物を移動したり誰かに渡したりすることを禁止し、および、持っている係争物を執行官に引き渡すよう命ずること
    • 執行官に、係争物を保管させ、かつ、「債務者が係争物を誰かに渡したりどこかにやったりすることが禁止され、執行官が係争物を保管中であること」を公示させること
  2. (2)仮の地位を定める仮処分

    仮の地位を定める仮処分は、金銭債権や物に関する権利のみならず、身分に関する争いがある場合に場合に行われます

    仮の地位を定める仮処分命令の内容は、申立ての内容によってさまざまです。

    (例)
    • 平穏に生活する権利
      →接近禁止の仮処分命令
    • 発信者情報開示請求権(プロバイダ責任制限法第4条第1項)
      →発信者情報の開示を命ずる仮処分命令
    など
  3. (3)仮処分命令の要件

    仮処分命令が発せられるのは、以下の要件を満たすことを申立人が疎明(裁判所に対し、絶対ではないにせよ、その可能性が高いことを証明すること)した場合です(民事保全法第13条第1項、第2項)。

    ① 保全すべき権利または権利関係
    被保全権利の存在を疎明する必要があります。

    ② 保全の必要性
    • (a)係争物に関する仮処分命令の場合
      係争物の現状の変更により、申立人が強制執行ができなくなるおそれがあること、または強制執行をするのに、著しい困難を生ずるおそれがあることを疎明する必要があります。
    • (b)仮の地位を定める仮処分命令の場合
      争いがある権利関係について、申立人に生ずる著しい損害、又は急迫の危険を避けるために、仮処分命令が必要であることを疎明する必要があります。
  4. (4)仮処分命令の効力

    仮処分命令は、強制執行の債務名義(強制執行の理由が書かれた公的文書)として用いることができます(民事執行法第22条第3号)。

    したがって、もし仮処分命令に債務者が従わない場合、申立人は裁判所に強制執行を申し立てることで、仮処分命令の内容を強制的に実現することが可能です。

    また、以下に挙げる仮処分については、民事保全法によって特別の効力が認められています。

    • (a)不動産の所有権登記請求権を保全するために、処分禁止の登記が行われた場合
      →処分禁止の登記後に不動産に関する権利を取得した第三者は、申立人に権利の取得を対抗できない(同法第58条第1項)
    • (b)不動産に関する所有権以外の登記請求権を保全するために、処分禁止の登記および仮処分による仮登記が行われた場合
      →本登記を行う段階で、処分禁止の登記に後れる不動産登記を抹消できる(同条第2項)
    • (c)不動産以外の物に関する権利で、登記または登録を対抗要件または効力発生要件とするものを保全する場合
      →(a)と(b)に準ずる(同法第61条)。
    • (d)占有移転禁止の仮処分が行われた場合
      本案の債務名義(訴訟の確定判決、仮執行宣言付判決)に基づき、以下の者に対して係争物の引渡しまたは明渡しの強制執行ができる(同法第62条第1項)
      ● 占有移転禁止の仮処分が執行されたことを知って係争物を占有した者
      ● 占有移転禁止の仮処分の執行後に、執行を知らないで、係争物につき債務者の占有を承継した者

3、仮処分申立ての手続き

仮処分申立ての手続きは、おおむね以下の流れで進行します。

① 仮処分申立て
申立書(収入印紙貼付)・疎明資料・郵券などを裁判所に提出して、仮処分申立てを行います。
申立先は本案(訴訟)の管轄裁判所、または係争物の所在地を管轄する地方裁判所です(民事保全法第12条第1項)。

② 申立人の裁判官面接
裁判官が申立人に対して、申立て内容についての確認等を行います。
弁護士による代理人申立ての場合は、省略される場合もあります。

③ 審尋手続き
仮の地位を定める仮処分申立ての場合のみ、審尋手続きが行われます。
審尋期日では、裁判所が債務者に対して、事件に関する質問等を行います。
申立人は、審尋期日に立ち会うことができます。

④ 担保決定・立担保証明提出
仮処分命令を発した後、申立人が本案で敗訴した場合には、債務者に無用な損害が発生する可能性があります。
そのため裁判所は、仮処分命令を発するに当たり、申立人に担保を立てることを命ずるケースが多いです。

裁判所から立担保命令が発せられた場合、申立人は期限までに担保を供託したうえで、裁判所に立担保証明を提出します。

⑤ 仮処分命令の発令
立担保証明を確認した後、裁判所は仮処分命令を発令します。

4、まとめ

法律トラブルを訴訟で解決しようとしても、相手方が債務を逃れるために、係争対象の物や権利を処分してしまう事態が想定されます。
このような事態を防ぐためには、早期に弁護士へご相談のうえで、民事保全の申立てをご検討ください。

弁護士は、民事保全の申立てから訴訟・強制執行に至るまで、お客さまの権利実現・回復を目指して、一貫したサポートをご提供できます。

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