結婚の誓約書に法的拘束力はあるの? 弁護士がわかりやすく解説します

2021年04月27日
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結婚の誓約書に法的拘束力はあるの? 弁護士がわかりやすく解説します

松山市が公表している平成30年の統計書によると、平成29年の婚姻件数は2410件でした。松山市内の平成25年以降の婚姻件数をみると、平成25年をピークにして徐々に減少していることがわかります。晩婚化が進んでいることも婚姻件数が減少している要因かもしれません。

これから結婚を控える男女の中には、結婚誓約書を書こうと考えている方もいるかもしれません。その時の勢いで無理難題を詰め込んだような結婚誓約書を書いてはいませんか。「結婚誓約書なんて法的拘束力がないだろう」などと安易に決めて書き残したしまった場合、ひょっとすると将来後悔することになるかもしれません。

今回は、結婚誓約書に法的拘束力があるかどうか等について、ベリーベスト法律事務所 松山オフィスの弁護士が解説します。

1、結婚誓約書(婚前誓約書)とは

結婚誓約書(婚前誓約書)とはどのようなものをいうのでしょうか。結婚誓約書(婚前誓約書)を作成しようと考えている方は、どのようなものかをきちんと理解した上で作成することが重要です。

以下では、結婚誓約書(婚前誓約書)についての基本的な知識について説明します。

  1. (1)結婚誓約書(婚前誓約書)とは何か

    結婚誓約書(婚前誓約書)は、法律上の定義があるものではありませんが、一般的には、婚姻する夫婦が婚姻前に作成する誓約書の一種です。婚姻生活を送るにあたっての約束事や家事の分担などについて取り決めをした内容を記載することが多いでしょう。

  2. (2)婚前契約(プレナップ)との違い

    結婚誓約書(婚前誓約書)と似た言葉に、婚前契約(プレナップ)というものがあります。婚前契約(プレナップ)とは、婚姻しようする男女が、夫婦の財産関係についての法定財産制とは異なる取り決めをする契約のことをいいます(民法755条、756条)。

    婚前契約については、主に離婚時の財産分与のトラブル等を回避するための手段として利用されています。すなわち、婚前契約(プレナップ)によって、あらかじめ特有財産と共有財産の範囲を明確にしたり、協議離婚時の財産分与の割合を明確にしたりしておくことで、財産分与における財産分与のトラブルを一定程度回避することが可能です。

    民法が定める婚前契約(プレナップ)は、第三者に対抗するためには登記をしなければならず、婚姻後にはその内容を変更することができないなどの厳格な要件が定められていますが、結婚誓約書(婚前誓約書)には、そのような要件はありません

    そのため、よりカジュアルな形式で婚姻後の夫婦の約束事を取り決めるものとして結婚誓約書(婚前誓約書)が利用されることがあります。もちろん、離婚後の財産分与について、結婚誓約書(婚前誓約書)に書き残すということも可能です。

2、契約成立の考え方

結婚誓約書(婚前誓約書)を作成することによってどのような効力が生じることになるのでしょうか。契約成立の基本的な考え方と結婚誓約書(婚前誓約書)の法的効力について説明します

  1. (1)契約成立の基本的な考え方

    契約とは、当事者同士の意思表示が合致することによって、法的な権利や義務が発生する行為をいいます。

    契約は、原則として当事者が合意をするだけで成立しますので、口約束だけでも契約は有効に成立します。しかし、口約束だけの合意だと、後日、その合意があったことやその合意内容について証明することが困難であることから、契約書などの書面が残されているのです。

    そのため、契約書を残すということは、後日、合意があったことを証明するためのひとつの証拠として機能することになります

  2. (2)結婚誓約書(婚前誓約書)の法的効力

    結婚誓約書(婚前誓約書)については、「誓約書」という名称ですが、契約書と同様の法的効力が認められる場合があります。そのほかにも「合意書」や「示談書」などの名称であっても効力には変わりありません。

    したがって、結婚誓約書(婚前誓約書)に記載した内容については、お互いの合意があったものとして、当事者はその内容に拘束されることになる場合があります

    結婚誓約書(婚前誓約書)の内容にもよりますが、合意した内容を守らなかった場合には、裁判を起こされ、その内容を実現させられるというリスクもあります。結婚誓約書(婚前誓約書)だからといって安易な気持ちでサインをしてしまうと、思わぬ不利益を被ることもありますので注意が必要です。

    契約内容をどのような内容にするかについては、基本的には当事者が自由に決めることができます。しかし、公序良俗に反するような内容を定めた場合には、その部分については無効になることがあります。具体的には、以下のような内容は無効になる可能性があります。

    ① 同居・扶助の義務を否定する条項
    同居・扶助の義務は、婚姻した夫婦の基本的な義務であるとされています。したがって、生活費を一切負担しないといった内容や婚姻をしても同居はしないといった内容を定めたとしても無効になります

    ただし、無効になるということはその内容を法的に強制することができないというだけで、お互いが自由に取り決めに従うという分には問題はありません。

    ② 夫婦どちらかの申し出によって自由に協議離婚できる旨の条項
    お互いが離婚に合意した上で、協議離婚をすることは当然認められますが、どちらかの一方的な申出のみで離婚をすることができるという条項は無効になります。民法では、夫婦が離婚することができる場合についての離婚事由を規定しています。そのため、自由に離婚をすることができるといった内容は、婚姻の本質を否定するものであるため無効となります。

    同様の理由から上記とは逆に夫婦が離婚できる場合を制限するような内容の条項についても無効になります

    ③ 法外な慰謝料を定める条項
    不倫をした場合には、慰謝料として100億円を支払うというような内容の条項については、大半の夫婦の場合には公序良俗に反して無効となります

3、確実に婚前契約を結びたい場合は公正証書がおすすめ

将来何かあったときのために確実な内容で婚前契約を結びたいというときには公正証書を利用することがおすすめです。

  1. (1)公正証書とは

    公正証書とは、公証役場の公証人によって作成される公文書のことをいいます。公正証書を作成する大きなメリットとしては、契約内容が守られなかったときに一部財産に関する条項であれば、強制執行が裁判を経ずに行うことができるという点です

    当事者間で作成した契約書や誓約書だけでは、強制執行をして相手の財産を差し押さえようと考えたときには、まずは裁判を起こして裁判所の判決を得る必要があります。そのためには、相当な労力を要するため、積極的にやろうという決断ができません。

    しかし、強制執行認諾文言を記した公正証書の場合には裁判手続きをスキップしていきなり強制執行の手続きをすることが可能になる場合があるのです裁判にかかる時間や労力を回避することができるということが最大のメリットです

    そのほかにも、公正証書は、公文書としての性質を有することから、その内容が争いになったとしても、公正証書にせずに紙に書いただけの合意書と比べて強い証明力があります。また、原本については公証役場に保管されていますので、紛失や偽造のリスクもありません。

    公正証書については、養育費、慰謝料、財産分与などが絡んでくる離婚協議書を確実な内容とするために利用されることが多いです

  2. (2)婚前契約書を公正証書にするメリット

    当事者同士で作成した婚前契約書であっても、法的効力が認められないわけではありません。

    しかし、すでに説明したとおり、婚前契約書を作成したとしても、その内容によっては無効になってしまう可能性がありますし、法律に詳しくない方だと契約書としての有効な体裁を整えていないというリスクがあります。特に、婚前契約では、夫婦生活に関する事柄を取り決めるといった性質上、さまざまな内容を盛り込むことが想定されますので、手続き面から有効性を担保するためにも公正証書を利用することが有効な手段となります。

    つまり公正証書を利用することによって、後日、「本当に合意するつもりはなかった」などの言い訳をすることが難しくなるでしょう。

4、婚前契約などの相談は弁護士へ

婚前契約を考えている夫婦は、その内容を有効なものとするためにも弁護士に相談をするようにしましょう。

  1. (1)結婚誓約書(婚前誓約書)の内容をチェック

    当事者同士が作成した結婚誓約書(婚前誓約書)では、契約書としての体裁や内容について不備があることが多くあります。せっかく円満な婚姻生活を送るための取り決めとして結婚誓約書(婚前誓約書)を作成するのですから、その内容についてはきちんと有効なものにしておきたいものです。

    弁護士にどのような内容の結婚誓約書(婚前誓約書)を作成したいかを夫婦で相談することによって、それぞれの夫婦に最適な結婚誓約書(婚前誓約書)を提案してもらうことができるでしょう

  2. (2)婚前契約(プレナップ)の利用は慎重に

    民法の形式に従った婚前契約(プレナップ)をする場合には、原則として婚姻後は内容を変更することが認められません。そのため、契約締結にあたっては不測の事態に備えた契約書を作成しておかなければなりません。

    法律の専門家である弁護士であれば、それぞれの夫婦の状況を踏まえた適切な内容の婚前契約(プレナップ)を提案してもらえるだけでなく、法律上有効な内容で作成してもらうことができますので、将来万が一配偶者と離婚することになったとしても安心です

    民法の形式に従った婚前契約(プレナップ)は、婚姻前しか行うことができませんので、早めに弁護士に相談をしてみるとよいでしょう。

5、まとめ

結婚誓約書(婚前誓約書)や婚前契約(プレナップ)は、婚姻後の円満な夫婦生活を送るためや離婚前後の紛争を予防するためにも有効な手段となります。

法的に有効な書面を作成するためには弁護士のサポートが不可欠ですので、結婚誓約書などの作成を考えている方は、ベリーベスト法律事務所 松山オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています