会社の備品を転売したら逮捕される? 売った場合に成立する罪

2023年07月18日
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会社の備品を転売したら逮捕される? 売った場合に成立する罪

令和4年、愛媛県松山市の男性が横領の疑いで逮捕されたとの報道がありました。男性はレンタル会社からリースした機器をリサイクルショップに売却した疑いで逮捕されました。

昨今はフリマアプリやインターネットオークションなどを利用して、誰でも簡単に売買取引が可能です。しかし、会社の備品などを勝手に転売する行為は、刑事事件として犯罪が成立する可能性があります。

今回は、会社の備品を勝手に転売してしまった場合の罪について、ベリーベスト法律事務所 松山オフィスの弁護士が解説します。

1、会社の備品や物を転売した場合、問われる罪は?

会社の備品や物を転売してしまった場合には、以下のような罪に問われる可能性があります。

  1. (1)窃盗罪

    窃盗罪とは、他人の財物を窃取することによって成立する犯罪です(刑法235条)。

    たとえば、商品を管理する権限や地位のないアルバイトがお店の商品を勝手に持ち出したという場合には、窃盗罪が成立する可能性があります。

    窃盗罪が成立した場合には、10年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。

  2. (2)横領罪

    横領罪とは、自己の占有する他人の物を不法に領得することによって成立する犯罪です(刑法252条1項)。

    横領罪も窃盗罪と同様に他人の物を自分の物にしてしまうことによって成立する犯罪ですが、横領罪の場合には、「自己が占有する」物であるという点に特徴があります。

    たとえば、お店の店長などの責任者は、お店の商品や備品を管理する立場にありますので、店の物を占有している状態にあります。そのため、店長がお店の在庫商品や備品を勝手に持ち出して、転売をしたという場合には、横領罪が成立する可能性があります。

    この場合、「業務として自己が占有している」立場にありますので、単純横領罪ではなく、より重い業務上横領罪が成立することになります(刑法253条)。

    単純横領罪の場合は5年以下の懲役、業務上横領罪が成立した場合には10年以下の懲役に処せられます。

  3. (3)背任罪

    背任罪とは、他人のために財産上の事務を処理する義務のある人が、その任務に背き本人に損害を与えた場合に成立する犯罪です(刑法247条)。
    背任罪も横領罪と同様、任務に反して他人に損害を与える犯罪であるという点では共通します。

    しかし、横領罪は自分が管理している物を勝手に処分するなどの行為が対象ですが、背任罪は任務に背いて損害を与えるものであれば成立し得る犯罪です。

    たとえば、企業秘密とされる情報を他社に流出させた場合や架空の取引を計上して会社に損害を与えたような場合が背任罪の典型的なケースです。

    背任罪が成立した場合には、5年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。

2、逮捕の可能性と逮捕後の流れ

会社の備品を勝手に転売してしまった場合には、必ず逮捕・起訴されてしまうのでしょうか。

  1. (1)備品を転売すると逮捕の可能性がある

    会社の備品を勝手に転売してしまった場合には、窃盗罪や業務上横領罪が成立する可能性があります。

    備品がなくなっていることに会社が気付いた場合には、これらの犯罪を疑い、警察に被害届の提出や刑事告訴をすることになります。会社から被害届の提出や刑事告訴を受けた捜査機関では、必要な捜査を行い、被疑者を特定していくことになるでしょう。

    被疑者を特定することができた場合には、逮捕まで至らず任意で事情聴取を受ける可能性もありますが、任意の取り調べに応じなかった場合や逃亡・証拠隠滅のおそれがある場合には、逮捕されることもあります

  2. (2)逮捕されてしまった場合の流れ

    警察に逮捕されてしまった場合には、以下のような流れで刑事手続きが進んでいきます。

    ① 逮捕
    警察に逮捕された場合には、警察署の留置施設に身柄が拘束され、警察官による取り調べを受けることになります。逮捕期間中は、たとえ家族であったとしても被疑者とは面会することができません
    なお、逮捕には時間制限が設けられており、警察は、逮捕から48時間以内に被疑者の身柄を解放するか、検察に送致しなければなりません。

    ② 勾留
    警察から検察へと被疑者の身柄が送致されると、検察でさらに取り調べを行い、24時間以内に身柄拘束を継続するか判断されます。引き続き身柄拘束が必要である場合には、裁判所に勾留請求を行い、認められると10日間の身柄拘束が行われます

    さらに勾留延長が認められると、追加で10日間の身柄拘束が行われますので、逮捕のときから最長で23日間も身柄拘束を受けることになります。

    ③ 起訴または不起訴
    勾留期間が満了するまでに、検察官は、事件を起訴するか不起訴にするかを判断します。不起訴処分となった場合には、被疑者の身柄は解放され、前科が付くこともありません。

    他方、起訴されてしまった場合には、刑事裁判が行われて、裁判所によって刑事処分が下されることになります

3、刑罰を受けたら会社へ弁償しなくてもいい?

刑事裁判によって刑罰を受けた場合、それですべての罪を償うことになると考える方も多いかもしれません。

しかし、刑罰と損害を受けた会社に対する弁償は別になります。以下、解説します。

  1. (1)備品の転売によって科される可能性のある刑罰

    備品の転売によって成立する可能性のある罪は、窃盗罪、(業務上)横領罪、背任罪の3つになります。

    それぞれの罪の法定刑は、以下のようになっています。

    • 窃盗罪(10年以下の懲役または50万円以下の罰金)
    • 業務上横領罪(10年以下の懲役)
    • 背任罪(5年以下の懲役または50万円以下の罰金)


    この罰金や刑罰は、会社ではなく、刑法を犯した罪に対して償う行為になります。

  2. (2)民事責任による賠償(弁償)も負う可能性がある

    会社の備品を転売した罪で罰金を支払ったとしても、被害を受けた会社の損害が回復されるわけではありません。罰金は、あくまでも刑事責任としての刑罰ですので、被害者に対して支払われるわけではないからです。

    そのため、備品の転売によって被害を受けた会社は、加害者に対して、民事上の責任として損害賠償請求をすることが可能です。加害者としては、被害者に生じた損害を弁償する必要があるでしょう。

  3. (3)懲戒処分を受ける可能性もある

    会社の備品を転売したという場合には、会社から懲戒処分を受ける可能性もあります。

    懲戒処分の内容としては、戒告、譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇があります。会社の備品を転売する行為は、重大な企業秩序違反となりますので、懲戒解雇という重い懲戒処分を受ける可能性もあります。

4、会社の備品を転売してしまったら弁護士に相談を

会社の備品や物を売ってしまった場合には、弁護士に相談をすることをおすすめします。

  1. (1)まずは会社と示談交渉をする

    会社の備品を転売した場合には、会社に対して損害が生じることになります。会社としても、損害が補填(ほてん)されれば刑事処分までは考えていないこともありますので、早めに会社と交渉を進めていくことが大切です。

    弁護士に交渉を一任すれば、適切な条件で示談を成立させることによって、被害届の提出や刑事告訴を回避できる可能性が高まります

  2. (2)逮捕・勾留されたら身柄解放に向けたサポートを受ける

    逮捕・勾留されてしまうと最長で23日間も身柄拘束を受ける可能性があります。長期間の身柄拘束による社会的な不利益は非常に大きなものになりますので、少しでも早く身柄を解放してもらうことが大切です。

    弁護士に依頼すれば、被害を受けた会社と示談交渉を行い、成立させることによって、早期の身柄解放が実現できる可能性が高まります。また本人との交渉が難航していても、弁護士が介入することによって、交渉がスムーズに進むこともあります。

    被害者と示談が成立すれば、起訴された場合でも有利な情状として考慮してもらうことが期待できますので、少しでも有利な処分にするためには弁護士のサポートが不可欠といえます。

  3. (3)不当な懲戒処分であれば無効の可能性がある

    会社の備品を転売してしまった場合には、雇い主である会社から懲戒解雇などの重い処分を受けてしまう可能性があります。

    しかし、懲戒処分をする場合には、当該処分が社会通念上相当なものであることが必要になります。たとえ窃盗や横領があったとしても不当に重い処分が下された場合には、無効となり得ます。

    懲戒解雇の処分を受けてしまうと、再就職も困難になってしまいますので、会社による懲戒処分の内容に納得がいかないという場合には、弁護士のサポートを受けながら争うことも検討しましょう

5、まとめ

会社の備品や物は、たとえ不要になったものであったとしても、勝手に転売してしまうと、窃盗罪や横領罪といった犯罪が成立する可能性があります。会社の備品の転売で問題になってしまったという場合には、早めに弁護士に相談をすることをおすすめします。

会社の備品を転売したことで罪に問われるのではないかと心配されている方は、まずは、ベリーベスト法律事務所 松山オフィスまでご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています