犯人の逃走を手助けしたら犯罪になる? 松山オフィスの弁護士が解説

2020年03月06日
  • その他
  • 逃走
  • 手助け
  • 松山
犯人の逃走を手助けしたら犯罪になる? 松山オフィスの弁護士が解説

平成30年4月、松山刑務所の作業場から受刑者が脱走したニュースが流れました。松山市を含め、瀬戸内海沿岸の都市で暮らす方々は、不安な日々を過ごされたことでしょう。

この事件のように、受刑者の脱走や犯罪の被疑者が逃走する事件は全国で起きていますが、その際、家族や知人などが逃走の手助けをすることがあります。受刑者や裁判が未決状態の者が逃走する事件の他、捜査機関が身柄の確保に至っていない被疑者段階の者が逃走する場合も、逃走手段の確保のために資金の援助や、匿う場所の提供など、多くの人間を巻き込む可能性があるのです。

ドラマなどであれば、罪を犯した家族や友人などから逃走の手助けを依頼された場合、優しく匿ってしまうシーンを散見します。しかし、実際に逃亡に協力してしまった場合は、どのような罪に問われることになるのでしょうか? 松山オフィスの弁護士が解説します。

1、犯人の逃走を助けると犯罪になる?

犯罪に該当する行為をし、それが捜査機関に知られてしまうと、警察の捜査対象になります。現行犯逮捕の場合はその場で逮捕されますが、そうではない場合、任意の取り調べからスタートするケースや、突然警察官が訪ねてきてその場で逮捕状を示されて逮捕されるケースもあるでしょう。警察から容疑をかけられた人を助けたいという思いから、捜査機関から逃走する手助けをした場合、どのような罪に問われるのでしょうか?

刑法第103条では「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者または拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する」と規定しています。

つまり、法律では判決が確定して拘束されている者だけでなく、判決が確定せずに警察の留置施設にいる者や、緊急逮捕されて逮捕状が発せられる前の者を蔵匿し、隠避した場合などにも罪になると規定しているのです。

なお、いずれの場合にも刑法第103条に触れる行為をしたとして取り締まりを受け、有罪になってしまうと、3年以下の懲役または30万円以下の罰金に処されることになります。

もう少し具体的にみていきましょう。

  1. (1)犯人蔵匿罪

    罰金刑以上の罪を犯した疑いがある人物を、警察による発見や逮捕から逃れるために隠れる場所を提供すると「犯人蔵匿罪」が成立します。蔵匿(ぞうとく)とは「匿う(かくまう)」という意味の言葉です。

    したがって、次のような行為は犯人蔵匿罪として罪に問われる可能性があるでしょう。

    • 自宅に犯人を住まわせる
    • 犯人が居住するためにホテルの1室やアパートを確保する


    犯人蔵匿は、捜査を妨害する行為であると解釈されます。したがって、逃走犯が真犯人であるか否かを問いません。いまだ捜査が始まっていない場合であっても、匿う行為があれば犯人蔵匿罪は成立します。

  2. (2)犯人隠避罪

    「隠避(いんぴ)」とは、先ほど説明した「蔵匿(ぞうとく)」以外の方法で、捜査機関などによる発見・逮捕から免れさせる行為が該当します。

    たとえば次のような行為をしたとき「犯人隠避罪」が成立する可能性があります。

    • 逃走資金を援助する
    • 逃走用の車を貸し与える
    • 変装のための道具を提供する
    • 身代わりとして出頭する、もしくは他の誰かを出頭させる


    犯人蔵匿罪、犯人隠避罪は、呼び方こそ異なりますが、両方とも刑法第103条に触れる行為に該当します。刑法第103条そのものが、国家法益に対する罪として規定されています。したがって、逃亡した者が実際に罪を犯したかどうかは関係がありません。犯人を逃がしたり隠したりすることによって、刑事司法作用の円滑な運営を妨げたことによって罪が問われることになります。

    被疑者となった方をかばうために裁判などで虚偽の発言をした場合は、犯人蔵匿・隠避罪ではなく、刑法第169条で定められた偽証罪として罪に問われることになります。いかにあなたにとって大切な人であろうとも、犯した罪を反省し、法に基づき事件を解決することは、本人の今後のためにも非常に重要なことです。いくら頼まれたからといっても、大切な人であるならなおさら、蔵匿、隠避の手伝いはしないほうがよいでしょう。

  3. (3)家族が犯人蔵匿・隠避を行った場合

    ただし、犯人の家族が犯人蔵匿罪・犯人隠避罪に該当する行為をした場合は、刑法第105条の規定に従い、刑罰が免除されることがあります。家族であれば逃走を手助けする心情もやむを得ないため、処罰の対象としない特例が認められているのです。

2、逃走した本人の罪は?

逃走した本人は、「逃走罪」の罪に問われます。どのような状況から逃走したかに応じて罪名が変わりますので、順にみていきましょう。

  1. (1)単純逃走罪

    刑法第97条では「裁判の執行により拘禁された既決または未決の者が逃走したときは、1年以下の懲役に処する」と規定しています。

    ここで登場する「既決の者」とは、判決が確定して刑務所に収監されている方を指します。他方「未決の者」とは、判決が出ていないために勾留中の者をいいます。

  2. (2)加重逃走罪

    刑法第98条では「前条に規定する者または勾引状の執行を受けた者が拘禁場若しくは拘束のための器具を損壊し、暴行若しくは脅迫をし、又は2人以上通謀して、逃走したときは、3月以上5年以下の懲役に処する」と規定しています。

    こちらは勾留前の被疑者、つまり逮捕状によって逮捕された者も含むと解されています。

    具体的には、拘束具や拘禁場所を破壊して逃げる、看守に対して暴力や脅迫を加えて逃げる、逃走のために2人以上で共謀したなどの行為が加重逃走罪になります。犯行形態が悪質なため対象範囲が広く、また処罰も重いものになっています。

  3. (3)犯人蔵匿罪や隠避罪の教唆犯

    知人などに対して逃走の手助けを頼んだ場合は、刑法第61条により、犯人蔵匿や隠避の教唆犯に問われる可能性があります。

    教唆犯とは、他人をそそのかして罪を犯させる犯罪のことです。

3、逃走中だと知らずに手助けした場合でも犯罪になる?

もし、友人などが犯罪の逃走犯であることを知らずに蔵匿・隠避に該当する行為があった場合でも、やはり犯人蔵匿罪・犯人隠避罪が成立するのでしょうか?

結論から言えば、犯人蔵匿罪・犯人隠避罪は故意犯とされています。つまり、犯人を捜査機関の手から逃がすという明確な故意がない限り、たとえ匿う行為や手助けする行為があったとしても犯罪が成立することにはなりません。

  • 特に理由も告げずに「しばらく居候させてほしい」と頼まれ自宅に住まわせた
  • 「お金を貸してほしい」とだけ告げられて、指定された口座に振り込んだ


例えば上記のような行為があったとしても、捜査の手から逃れさせようという意思がない限りは犯人蔵匿罪・犯人隠避罪は成立しないと考えられます。ただし、「逃走に協力したのではないか?」という疑いがかけられることは避けられないでしょう。

警察による取り調べに至った場合には、逃走中であることを知らなかったと具体的に説明できる証拠が必要となります。

4、逃走を手助けするように脅された場合はどうなる?

逃走中の犯人から「匿わないなら殺す」などの脅迫を受けて犯人蔵匿・隠避を行った場合はどうなるのでしょうか?

たとえ脅されたとしても、自身の行為によって犯人の逃走が実現すると十分に認識していれば故意が認められることも考えられます。しかしその一方で、脅迫によって行為者の自由な意思決定は否定されるため、刑法第37条に規定された「緊急避難」とみなされ、罰せられない可能性があります。

脅されて逃亡を手伝った結果、罪に問われそうになっているときは、できるだけ早期に弁護士に相談するべきでしょう。

5、まとめ

逃走中の犯人を匿う、逃走の手助けをすることは、国家の刑事司法を妨害する行為に該当します。したがって、刑法によって犯罪として処罰の対象とされていることが規定されています。

たとえ仲のよい相手が、「自分は無実だ」と主張していた場合であっても、捜査の手から逃れる手助けは避けたほうがよいでしょう。自分自身も罪に問われてしまいますし、安易に捜査機関からの逃走を手助けするべきではありません。

もし、知人などから理由を知らされずに「しばらく匿ってほしい」とか「逃走資金を貸してほしい」といった要望を受け、これに応えてしまった場合は、速やかに弁護士へ今後の行動について相談してください。自分の行為がどのような罪に該当するのか、もし犯罪になるとすれば、今後どのような行動を取るべきか、弁護士ならば適切なアドバイスができるでしょう。

もし、自分がやってしまった行動が、犯人隠匿・隠避罪に該当するのではないかと不安になった場合は、ベリーベスト法律事務所 松山オフィスまでご相談ください。刑事事件の経験が豊富な弁護士が全力でサポートします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています