相続と遺贈の違いとは? 相続に関する基礎知識を弁護士が解説!
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裁判所の司法統計年報によると、平成29年の松山家庭裁判所における遺産分割事件数は165件でした。
こうした家庭裁判所での争いに至らなくても、相続をめぐってトラブルが生じることは多いものです。
ご自身の相続をめぐって親族などの大切な方々が争うことのないように、相続に関して正確な知識を持ち対策を立てておくことは重要です。
本コラムでは、相続と遺贈の違いをテーマに相続に関する基礎知識をベリーベスト法律事務所 松山オフィスの弁護士が解説していきます。
1、相続とは
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(1)相続とは
相続とは、被相続人が亡くなった場合にその財産に関する一切の権利や義務を包括的に法定相続人が引き継ぐことをいいます。
法定相続人は被相続人の財産に関する一切の権利や義務を引き継ぐのですから、預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく住宅ローンや借金などのマイナスの財産も引き継ぐことになります。
ただし扶養請求権や年金請求権のように被相続人だけに属する権利については、相続人が引き継ぐことはありません。 -
(2)法定相続人とは
法定相続人とは、被相続人の財産を引き継ぐ相続人として民法で定められている人のことをいいます。
まず被相続人の配偶者は、法定相続人となります。
そして次のような順位のうち先順位となる相続人が法定相続人となります。
第1順位 子ども(子どもが死亡していれば孫)
第2順位 父母や祖父母など
第3順位 兄弟姉妹(兄弟姉妹が死亡していればおいやめい)
たとえば親が健在で子どものいない夫婦の一方が亡くなれば、配偶者とともに親が法定相続人になります。
なお被相続人の内縁のパートナーや認知されていない子どもなどは、法定相続人にはならないので相続することはできません。 -
(3)相続はどうする?
法定相続人になった場合でも「借金の方が多い」「長男に家業を任せたい」などといった事情があり、相続することを選択しない場合には「相続放棄」することもできます。
「相続放棄」は、自らが相続人になったことを知ったときから原則として3ヶ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をして行います。
またプラスの相続財産の限度でマイナスの財産を相続する「限定承認」をすることもできます。「限定承認」も3ヶ月以内に家庭裁判所に限定承認の申述をして行いますが、相続人全員が共同して行わなければなりません。
このような「相続放棄」や「限定承認」をしない場合などには、プラスの財産もマイナスの財産も全て相続するという単純相続と呼ばれる一般的な相続をすることになります。
2、遺贈とは
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(1)遺贈とは
遺贈とは、被相続人が亡くなった場合にその財産を遺言によって特定の人に与えることをいいます。
遺贈によって財産を与えられる特定の人を「受遺者(じゅいしゃ)」といいます。
受遺者には、相続人のほか内縁のパートナーや友人もなることができます。またNPO団体などの法人も受遺者になることができます。
そのため遺贈は、法定相続人でない立場の人や法人に財産を与えることが可能になる方法になります。
遺贈と似た制度として死因贈与がありますが、死因贈与は受贈者の同意がいる契約であるのに対して遺贈は受遺者の同意のいらない単独行為となります。
遺贈は、「包括遺贈」と「特定遺贈」の2種類に分けることができます。 -
(2)包括遺贈とは
包括遺贈とは、被相続人の財産の全部または一部を包括的に割合で指定して遺贈することです。
包括遺贈を受けた受遺者は、プラスの財産だけでなくマイナスの財産も引き継ぐことになります。そして、相続人と同様に遺産分割協議に参加することができます。
包括遺贈を放棄する場合には、3ヶ月以内に家庭裁判所に放棄の申述をしなければなりません。 -
(3)特定遺贈とは
特定遺贈とは、被相続人の特定の財産を指定して遺贈することです。
特定遺贈を受けた受遺者は、指定された特定の財産を引き継ぐことになります。
特定遺贈を放棄する場合は、家庭裁判所への放棄の申述は必要なく基本的にはいつでも放棄することができます。しかし、特定遺贈の放棄に期限が定められていないため,遺贈義務者等には催告権が与えられており,催告によって定められた相当の期間内に回答がない場合には遺贈を承認したものとみなされます。そして、遺贈の承認及び放棄は撤回することができません。 -
(4)遺言執行者とは
遺言執行者とは、被相続人の遺言を執行する人のことをいいます。
被相続人は、遺言で遺言執行者を指定したり遺言執行者の指定を第三者に委託したりすることができます。
そのため遺言執行者が遺贈の執行義務者となりますが、遺言執行者がいなければ相続人全員が遺贈の執行義務者となります。 -
(5)遺贈をする場合には相続人の遺留分に注意!
遺贈する場合には、相続人の遺留分に注意して遺言書を作成しなければなりません。
遺留分とは、一定の相続人に必ず残しておくべき一定の相続財産の割合のことです。
相続人が配偶者や子どもの場合は被相続人の財産の2分の1、父母などの直系尊属の場合は3分の1が遺留分となります。
遺留分を侵害する遺贈がなされた場合には、遺留分権利者が遺留分減殺請求権を行使すれば侵害した相続分を受遺者は返還しなければならなくなり争いのもととなるので遺言書を作成する際には注意が必要です。
3、相続と遺贈の違いとは
相続と遺贈の違いをそのメリットなども含めてみていきます。
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(1)対象者の違い
相続を受ける対象は法定相続人ですが、遺贈を受ける対象は相続人に限られません。
遺贈は、ご説明したように相続人以外の内縁のパートナーや友人や法人を受遺者として行うことができることがメリットです。
また相続に関しては、法定相続人が被相続人よりも先に亡くなっている場合でもその子どもが代襲相続することができます。
しかし遺贈に関しては、受遺者が被相続人よりも先に亡くなった場合には無効となります。 -
(2)年齢の違い
相続は、被相続人が何歳であっても特別な意思表示なく発生するものです。
一方遺贈は、被相続人が15歳以上である場合に遺言書に記載して行うことができるという違いがあります。 -
(3)相続税の金額の違い
相続と遺贈では、相続税の金額の違いが生じます。
相続によって取得した財産には相続税がかかりますが、遺贈によって取得した財産にも相続税がかかります。
遺贈によって相続財産を取得した受遺者が配偶者または1親等の血族以外であった場合には、相続税は通常の相続より2割加算して課税されることになります。 -
(4)不動産登記上の違い
特定遺贈が行われた場合には、受遺者が取得した不動産の所有権移転登記を行うと固定資産税評価額の4%が不動産取得税として課税されます。一方相続では、不動産取得税は課税されません。
そして不動産の所有権移転登記を行う場合の登録免許税も、相続では固定資産税評価額の0.4%であるのに対して遺贈では2.0%課税されるという違いがあります。
また特定遺贈された農地を所有権移転登記する場合には原則として農地法による許可が必要ですが、相続による所有権移転登記には農地法による許可が不要であるという違いもあります。
4、後悔のない相続にするためには
これまで相続と遺贈についてご説明してきましたが、遺言による遺贈は法定相続に優先します。特定の方に財産を残したいというご自身の意思を反映して後のトラブルを防ぐためには、相続と遺贈の違いを理解したうえで遺言書を作成しておくことが重要です。
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(1)遺言書の作成
遺言書は、主に「自筆証書遺言」「公正証書遺言」の2つの方式が利用されることが多いものです。
「自筆証書遺言」は、遺言者本人が自書して作成するもので誰でも簡単に書くことができるというメリットがあります。しかし有効となるには厳格な取り決めがあることから方式の不備によって遺言書が無効になることもあります。
「公正証書遺言」は、遺言者が2人以上の証人とともに公証役場に行き遺言内容を公証人に口述して公証人に遺言書を作成・保管してもらうものです。「公正証書遺言」は公証人が遺言書を作成・保管するので、無効になったり改変や偽造されるリスクもほぼないというメリットがあります。 -
(2)弁護士に相談して進めることがポイント
後悔のない相続にするためには、遺言書を作成しておくことが重要です。
しかし遺言書を作成するためには、「誰が相続人になるのか」「どのような財産が相続財産となるのか」「遺留分を侵害しない遺言にするためにはどうすればよいか」「税金面を考慮するとどのような内容が良いのか」などとさまざまな問題に直面することも多いものです。
そういった場合には、弁護士に相談して進めることで法律的な問題を解決し後悔のない相続につなげることができます。
5、まとめ
本コラムでは、相続と遺贈の違いをテーマに相続に関する基礎知識を解説していきました。
特定の方に財産を残したいという場合には、有効な遺言書を確実に作成しておくことが大切です。
相続について疑問や不安をお持ちの方は、ベリーベスト法律事務所 松山オフィスまでどうぞお気軽にご相談ください。弁護士が後悔のない相続に向けてサポートいたします。
ご注意ください
「遺留分減殺請求」は民法改正(2019年7月1日施行)により「遺留分侵害額請求」へ名称変更、および、制度内容も変更となりました。
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