普通解雇と懲戒解雇の違い。 会社が知っておくべきトラブル回避法

2021年10月26日
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普通解雇と懲戒解雇の違い。 会社が知っておくべきトラブル回避法

令和2年8月に、放送会社で働く社員が、松山市内の金融機関のATMに置き忘れられていた利用客の現金約22万円を持ち帰り、自分の口座に振り込んだとして懲戒解雇されました。

懲戒解雇は、労働者が犯罪をしたり、会社に大きな損害を与えたりした場合に、しばしば行われる手続きです。たしかに、会社としては、そのような労働者がいた場合、相応の処分をしたいと思うのが心情でしょう。

しかし、懲戒解雇は、解雇の中でもとりわけ労働者に与える影響も大きいものです。その分、普通解雇と違って決められた手続きを行わなければ不当解雇とみなされ、トラブルに発展するケースも珍しくありません。

この記事で、ベリーベスト法律事務所 松山オフィスの弁護士が、会社が知っておくべき対処法を解説しますので、適切な対応を取りたいときの参考にしてください。

1、解雇とは

解雇とは、会社と労働者の間で交わされている労働契約を、会社のほうから一方的に解消する行為を指します。

解雇は、理由や経緯によって、普通解雇・懲戒解雇・整理解雇の3つに分かれます。普通解雇とは、労働者の能力不足などの労働者側の債務不履行を理由とする解雇、懲戒解雇とは、企業秩序違反に対する制裁としての懲戒処分として行われる解雇、整理解雇は使用者の業績不振による人員整理の必要性を原因とする解雇です。

解雇(とりわけ懲戒解雇)は、後ほど詳しく見るように、労働者にとって影響が大きいものです。会社としては、解雇した労働者から労働審判手続や訴訟手続を提起され、多額の損害賠償金を支払わなければいけないときもあるため、慎重に行う必要があります

2、懲戒解雇と普通解雇(通常解雇)の特徴と違い

懲戒解雇と普通解雇は、何が異なるのでしょうか。以下、5つの観点から違いを解説します。

  1. (1)実行の目的

    懲戒解雇と普通解雇で、大きく異なる点のひとつが、実行の目的です。

    懲戒解雇は、規律違反に対する制裁、懲罰の一種として行われるのが一般的です。一方、普通解雇は、労働者の労務提供義務の不履行に対して行われます。

  2. (2)適法とみなされる要件

    解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇権の濫用として無効とされます

    懲戒解雇の場合、法律に抵触している、懲戒処分を何度か行っても改善が見られない場合、客観的合理的な理由があり、社会通念上相当性が認められる傾向にあります。具体的には会社の財産を勝手に売却したり売上金を引き抜いたりする横領、悪質なセクハラやパワハラなどです。長期間の無断欠勤や経歴詐称も、懲戒解雇の正当な理由となるときがあります。

    普通解雇の場合、労働者の能力が足りていない、協調性に欠ける、怪我や病気によって働けなくなったなどを理由とし場合、客観的合理的理由があり、社会通念上相当性が認められる傾向にあります。たとえば、教育期間を十分に設けても成長が見られず、本人のやる気も感じられないときは、普通解雇が有効になる蓋然性が高いでしょう。

  3. (3)解雇予告義務の有無

    企業は、労働者を解雇する際には、解雇から30日前までに前もって「あなたを○○日に解雇しますよ」と伝えておかなければいけません。これを解雇予告義務と言います。予告するタイミングが30日を切る場合、遅くなった日数分だけ解雇予告手当の支払いが必要です

    懲戒解雇の場合は、労働基準監督署に解雇予告除外認定を申請し、認定された場合免除されます。普通解雇の場合は、どのようなケースであっても、この義務が生じます。

  4. (4)退職金の有無

    懲戒解雇の場合、退職金は支払わないのが一般的です。ただし、就業規則に不支給とする旨が記載されていない場合や、懲戒解雇の理由によっては支払わなければならないときがあります。

3、懲戒解雇の具体的ケース

次に、どのような場合に懲戒解雇が行われているのか、具体的なケースを見ていきましょう。

  1. (1)横領する

    会社のお金を自分の懐に入れるような横領をした場合、その労働者を懲戒解雇するケースは少なくありません。令和2年3月には、平成26年4月から平成31年11月の約5年半にわたって、会社の資金1億5600万円を着服した経理担当者が懲戒解雇されました。この労働者は、その後令和2年11月に、業務上横領容疑で逮捕されています。

  2. (2)犯罪をする

    業務中、業務外にかかわらず、犯罪をした労働者を、懲戒解雇するケースもしばしばあります。令和元年6月には、図書館の管理を行う会社の男性従業員が、女性トイレに盗撮目的でカメラを設置したとして懲戒解雇されました。同年11月には、警備会社の社員が顧客の家から高級腕時計や結婚指輪などの貴金属品を盗んだことで、懲戒解雇される事件も発生しています。

  3. (3)長期間、無断欠勤をする

    懲戒解雇は、無断欠勤を長期にわたって行った労働者に対して行われることもあります。以前には、郵便会社で集配業務をしていた労働者が26日間欠勤をしたことを理由に懲戒解雇されました。

    なお、同ケースでは、その後労働者が損害賠償金や退職金を求めて裁判を起こしています。しかし、東京地方裁判所は、過去の労働者の言動(複数回にわたって注意を受けている、会社の酌量で懲戒解雇より若干軽い処分である論旨解雇を告げたのに拒否し続けた)から、懲戒解雇が妥当と判断し、平成25年に労働者の訴えを棄却しています。

  4. (4)経歴を詐称する

    経歴詐称は、たとえば仕事で必要な資格を持っていないのに「持っている」とうそをつく、最終学歴を偽るなどです。それらが企業の秩序を乱すとして、懲戒解雇が行われるときがあります。昭和55年には、旋盤工として雇用された従業員が、本当は大学中退者なのに高卒と履歴書に記載していたこと、犯罪をして起訴されているのを隠していたことが見つかり、懲戒解雇となりました。

  5. (5)悪質なパワハラやセクハラをする

    懲戒解雇には、パワハラやセクハラで、相手に身体的・精神的なダメージを負わせた労働者に行うケースもあります。平成30年12月には、新聞社で働く男性局長が、社内外の複数の女性にセクハラ、勤務時間外に社員に頻繁に仕事の電話をするパワハラを行い、懲戒解雇となりました。この事件では、同社取締役5人に、役員報酬1か月分の返上を命じるなどの懲戒処分も行われました。

4、社員にとって懲戒解雇の影響は大きい

懲戒解雇は、今見てきたように、労働者が重大な問題が起こしたときにしばしば行われています。周囲から「この人は、よほど悪質なことをしたんだろう」と思われやすいのが、懲戒解雇とも言えるでしょう。

そのため、懲戒解雇は、当該従業員の解雇後のキャリアにも大きな影響をもたらします。

たとえば、就職面接の担当者に対していい印象を持ってもらえず、再就職がなかなか叶わない場合があります。また、就職できたとしても、何らかの形で懲戒解雇のうわさが流れれば、職場にいづらくなる可能性も考えられます。

5、会社が懲戒解雇をする際の注意点

懲戒解雇は、退職金がもらえないなどに加えて、再就職も不利になることから、多くの労働者はできるかぎり避けたいと考えます。そのため、会社は、懲戒解雇を実行するとき、特に次の点に注意しなければいけません。

  1. (1)就業規則の確認

    懲戒解雇は、就業規則に則って行われなければ無効です。就業規則を確認し、懲戒解雇の手続きがどのように記載されているのか確認しましょう。このとき、懲戒解雇に値するかどうか、就業規則と労働者の言動を照らし合わせて精査することも大切です。

  2. (2)裏付けを取る

    懲戒解雇を行うにあたっては、手続の適正を担保するため、事前に労働者に弁明の機会を与えた方がよいでしょう。その際、労働者からの反論が考えられるので、事実を裏付けるような証拠(無断欠勤が続いているなら、当該労働者のタイムカードなど)をあらかじめ用意するといいでしょう。

  3. (3)懲戒解雇理由に抜け漏れがないようにする

    懲戒解雇の場合、一度実行してしまうと、あとになって別の懲戒解雇理由が見つかったときに、それを当該解雇の妥当性を示すものとして加えることはできません。たとえば、経歴詐称で懲戒解雇にしたが、詳しく調査したら部下にパワハラをしていたことが発覚した……としましょう。このとき、パワハラの存在をもって当該懲戒解雇の妥当性を根拠付けることはできません。

6、まとめ

懲戒解雇は、労働者にとって、もっとも重たい罰とも言える解雇です。合理的な理由と裏付けとなる証拠を用意し、かつ適切な手順で行うことが求められます。ひとつでも欠けば、不当解雇とみなされやすくなるでしょう。

そのため、懲戒解雇を検討している際に、少しでも判断に迷うことがあれば、弁護士への相談をおすすめします。

ベリーベスト法律事務所 松山オフィスにも、実績豊富な弁護士が在籍しているので、穏便にことが済むようにサポートすることが可能です。この機会に、ぜひご連絡いただければと思います。

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