アルバイト(パート社員)を解雇するときの留意点やリスクとは?
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総務省統計局が公表する「労働力調査(基本集計)2022年(令和4年)平均結果」によると、完全失業者は令和4年平均で179万人と、3年ぶりの減少となりました。非自発的な離職となった方は46万人いるとのことです。
愛媛県では、新型コロナウイルス感染症の影響で雇用調整助成金や緊急雇用安定助成金の支給決定を受けた雇用主に対して、雇用安定支援のために「標記助成金」の上乗せ助成を行っていましたが、令和5年11月末で終了することとなりました。
新型コロナウイルス感染症の影響による社会経済情勢の変化など、さまざまな背景からアルバイト(パート社員)の解雇を検討している企業は少なくないでしょう。
本コラムでは、アルバイト(パート社員)をやめさせるときの一般的な留意点やリスク、手続きの流れなどについて、ベリーベスト法律事務所 松山オフィスの弁護士が解説します。
1、アルバイト(パート社員)は解雇できるのか?
そもそも、アルバイトを解雇しても問題ないのか、と躊躇している方もいるかもしれません。
結論から言えば、アルバイトやパート社員(以下、アルバイトで統一)を解雇することは可能です。ただし、解雇は労働者の生活に大きく関わることから、制限なく行うことはできません。
労働契約法第16条によれば、合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められない解雇は無効です。そのため、適正な手続きを経ないで解雇させた場合、不当解雇とみなされる可能性があります。
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(1)解雇の正当性
では、具体的にどのような場合に正当だとみなされるのでしょうか。解雇は、主に普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の3種類があります。それぞれにわけて見ていきましょう。
● 普通解雇
まず普通解雇は、労働者の勤務態度や能力を見て、客観的に見ても解雇は妥当と判断できる場合に正当とみなされやすくなります。たとえば、複数回にわたって注意しても遅刻が直らない、十分な教育を施したり配置転換したりしたが成長が見られないなどです。
● 整理解雇
整理解雇は、4つの要素を総合的に考慮して、正当か否かを判断します。
4つの要素とは、下記のとおりです。- ① 人員削減の必要性がある
- ② 解雇回避努力が尽くされた
- ③ 人選基準とその適用が合理的
- ④ 労働組合もしくは解雇される者と十分協議をした
したがって、整理解雇を実行するときは、事前に希望退職者を募る、給料や賞与を減らす、新しい人材を雇うのをやめるなど、解雇をできるかぎり回避する努力が必要です。整理解雇がやむを得ないこと、また整理解雇の人選が合理的であることなどを、労働者本人や労働組合に事前に説明することも求められます。
● 懲戒解雇
懲戒解雇が正当とみなされるのは、従業員が法律に反する行為をしたときや、会社の秩序を乱したときなどです。懲戒解雇は労働者にとって非常に重い罰なので、より慎重な判断が必要となります。 -
(2)解雇予告と解雇予告手当
上記3種類の解雇のうち、普通解雇と整理解雇は、解雇を事前に労働者に伝える解雇予告が必要です。予告のタイミングによっては、解雇予告手当を支払わなければいけません(詳しくは第3章)。
一方、懲戒解雇は、労働基準監督署から解雇予告除外認定を受ければ免除されます。 -
(3)有期契約労働者の解雇について
労働契約法第17条は、有期雇用契約の労働者については、やむを得ない事由がなければ解雇できないと規定しています。やむを得ない事由とは、期間満了を待たずに直ちに契約を終了させざるを得ないような重大な事由と解されており、無期雇用契約の解雇における判断より厳格になっています。
2、適正な手続きを経ない解雇で被るリスクとは?
適正な手続きを経ない解雇をした場合、民法709条にもとづき、アルバイトから民事訴訟される可能性があります。裁判で解雇が無効とみなされれば、解雇されなければ受け取れたはずの給料や、不法行為による損害賠償金をアルバイトに支払う必要が出てくるでしょう。
また、解雇が労働基準法に違反していれば、懲役刑や罰金刑が科されることもあります。
たとえば、使用者は、業務中に怪我をした労働者が療養している期間中と、その後30日間は解雇してはいけません(労働基準法第19条)。この間に普通解雇をすれば、法律違反として6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
3、アルバイトを解雇するときの手続きの流れ
今見てきたように、解雇はきちんとした手続きを踏まなければ、さまざまなリスクが生じます。では、具体的に何をすればいいのでしょうか。大まかな流れは、次のとおりです。
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(1)退職勧奨をする
解雇は、即座に手続きを進めるのではなく、いったん退職勧奨を試みるのが一般的です。退職勧奨とは、従業員に対して、自主的に退職するように会社が持ちかけること。従業員の意思にもとづくため、解雇よりも穏便に済ませられる場合があります。
ただし、退職勧奨を長期にわたって執拗に行う、従業員の意思に反して退職勧奨を続けるなどは、法律違反とみなされます。多人数で面談を行う、命令口調で交渉をするなども同様です。違法性を問われないようにするために、面談時間を短くする、丁寧な言葉遣いで話すなどを心がけ、アルバイトが自分の意思で選べるようにするのがポイントとなるでしょう。 -
(2)解雇理由を整理する
退職勧奨は、あくまでアルバイトの承諾が必要なためにあるため、やめない可能性が十分にあります。それでも退職させたい場合は、解雇の手続きへと進みます。
最初に行うのは、就業規則を踏まえた上での解雇理由の整理と、普通解雇・整理解雇・懲戒解雇のいずれにするのかの検討です。解雇の正当性が認められるように証拠資料をそろえる、仮に不当解雇と言われたときの対処方法を決めるなどもしておきます。 -
(3)解雇予告手当の支払いについて検討する
普通解雇や整理解雇、労働基準監督署から除外認定されなかった懲戒解雇の場合、基本的に30日前に解雇予告をしなければいけません。
もし30日よりも短くなる場合は、30日に足りない日数分だけ解雇予告手当を支払う必要があります(労働基準法第20条)。たとえば9月30日を解雇日としたときに、解雇予告日が13日前だった場合、17日分で計算します。
解雇予告手当の計算方法は、平均賃金×短くなった日数です。平均賃金は、通常、過去3か月分の賃金の合計額を、その間の総日数で除して求めます。賃金には基本給のほか、通勤手当や年次有給休暇の賃金などが含まれます。
なお、解雇予告手当を30日分支払いさえすれば、即日解雇が可能です(労働基準法第20条第2項)。 -
(4)解雇予告をする
解雇理由の整理や種類の決定、解雇予告手当の検討などをしたら、解雇予告通知書(解雇通知書)を作成します。通知書には、当該アルバイトの名前、アルバイト先である使用者の名前、通知日のほか、解雇予告をする旨、解雇日、解雇理由、解雇予告手当の内容を簡潔に記載するのが一般的です。
作成したら当該のアルバイトと面談を行います。このとき、特に解雇する旨、解雇理由、解雇日を口頭でも説明すると、あとでトラブルが起きにくくなります。
また、解雇予告通知書はコピーを用意しておき、受領印をもらうのがベターです。面談がなかなか実現せず、受領印がもらえない場合は内容証明郵便を利用します。 -
(5)解雇したあとは?
解雇したら、ハローワークに雇用保険被保険者資格喪失届と離職証明書を、解雇日の翌日から10日以内に提出します。ハローワークから離職票が送られてくるので、当該のアルバイトに送付しましょう。
また、年金事務所に健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届を、解雇日の翌日から5日以内に提出するのも忘れずに行います。それが終わったら、当該のアルバイトに資格喪失証明書を送ります。
場合によっては、労働者から解雇理由証明書の請求や、労働組合からの団体交渉があります。いずれも無視すると法律違反で訴えられる可能性があるので、速やかに対処しなければいけません。
4、アルバイトを解雇するとき、特に留意すべき点とは?
最後に、アルバイトを解雇するときに、特に留意すべき点をふたつご紹介します。
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(1)出勤日数が少ないアルバイトに解雇予告手当を支払うとき
解雇予告手当には、日給制や時給制の場合においては最低保証額が決められています。最低保証額は、過去3か月分の賃金の合計額を、その間の実労働日数で割った額の60%です。この金額を下回ってしまうと、労働基準法第12条違反になります。
上述したように解雇予告手当のベースとなる平均賃金は、3か月の合計賃金を総日数で割って求めます。この計算方法だと、出勤日数が少ないとき著しく低くなる可能性があるため、当該のアルバイトがあまり出勤していない場合は、特に気をつけなければいけません。 -
(2)有期雇用契約満了を理由にやめさせるとき
有期雇用契約の場合、前述したように、契約途中での解雇は難しい傾向にあります。有期雇用契約を結んでいる労働者をやめさせるときは、契約満了時に契約を更新しない方法をとるのが現実的です。この方法を雇止めと言います。
雇止めは解雇ではないため、解雇予告や解雇予告手当の支払い義務はありません。もっとも、労働契約法第19条によって雇止めが無効になる場合があります。過去に何度も契約更新をしている労働者や、契約更新をおのずと期待できる環境にある労働者が対象のときは、当てはまる可能性があるので注意しましょう。
5、まとめ
従業員を解雇する場合、使用者には、解雇理由や解雇の種類などについての十分な理解と、アルバイト(パート社員)への丁寧な対応が求められます。
「トラブルが起こらないようにしたい」「すでに起こってしまったトラブルを解決したい」というときは、弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士に依頼すれば、労働者とスムーズに交渉を進めることができます。また、訴訟になっても、こちらの言い分が認められる主張を代理ですることが可能です。弁護士費用が必要となりますが、人的・時間的な負担を大きく軽減できるため、結果的に得することが多いでしょう。
アルバイトなどの従業員の解雇にあたってお困りの際は、ベリーベスト法律事務所 松山オフィスの弁護士へ、ぜひ気軽にご相談ください。弁護士が親身になって、お話を伺います。
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