養育費不払いは刑事罰? 逃げた場合の罰則と養育費の差し押さえ方法
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松山市が公表している「松山市統計書」によると、令和3年の松山市内での離婚件数は757件でした。平成28年は915件となっており、毎年一定数の夫婦が離婚をしていることがわかります。
子どものいる夫婦が離婚したときには、離婚後の養育費の支払いについてトラブルになることがあります。
離婚するときには、養育費はきちんと支払うと約束をしたにもかかわらず、離婚してしばらくすると支払いがストップする、連絡をしても無視される、ということは決して珍しいことではありません。
そもそも、養育費は子どもが健全に成長していくためにも不可欠なお金です。「養育費を支払わない人に、何か罰則はないのか」と考える方もいるでしょう。
今回は、養育費の不払いに対して罰則が適用されるのか、また養育費の差し押さえの方法について、ベリーベスト法律事務所 松山オフィスの弁護士が解説します。
1、そもそも養育費とは
養育費とは、子どもが社会人として経済的・社会的に自立をして生活をすることができるようになるまでに必要となる費用のことを指します。養育費には、子どもの衣食住に必要となる費用のほかに、医療費や教育費なども含まれます。
養育費は、あくまでも子どもの生活に必要となる費用ですので、子どもを監護する親の生活費は含まれません。
離婚をして、子どもを監護することになった親は、非監護親に対して養育費を請求することが可能です。養育費の金額については、まずは、当事者同士の話し合いによって決めることになります。
なお、養育費の金額については、裁判所がホームページ上で公表している養育費の算定表を用いることによって、養育費の相場を知ることも可能です。
養育費の計算は、基本的には、双方の収入と子どもの人数を基準として計算し、養育費の支払い義務者の収入が多いほど養育費の金額は大きくなる傾向にあります。
ベリーベスト法律事務所でも、養育費算定表に基づく「養育費計算ツール」をご用意していますので、ご利用ください。
2、養育費不払いで刑事罰は本当か?
養育費の不払いに対して元配偶者に刑事罰が適用されるといううわさを聞いたことがある方もいるかもしれません。
刑事罰が適用されれば、養育費の支払いについて一定の効果が期待できるところですが、果たして養育費の不払いに対して刑事罰が適用されるというのは本当でしょうか。
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(1)民事執行法の改正により刑事罰が導入
養育費の不払いに対して直接刑事罰が適用されるということではありませんが、民事執行法が改正されたことにより、債務者(たとえば、養育費の支払い義務者)が財産開示に応じないときには、刑事罰が適用されるようになりました。
養育費の不払いに対しては、相手の財産を差し押さえるなどの強制執行によって滞納している養育費を回収することが考えられます。
しかし、強制執行を申し立てるためには、差し押さえの対象となる財産を特定したうえで申し立てをしなければならず、相手の財産を把握していない場合には、強制執行の手段をとることができません。
改正前の民事執行法でも「財産開示手続き」という、債務者に財産開示を命じる制度はありましたが、財産開示に応じない場合の罰則が「30万円以下の過料」という行政罰のみでした。過料は、刑事罰ではないため、財産を特定されるよりも過料の制裁の方がよいと判断した債務者は、財産開示に応じてくれないこともありえました。
このような不都合を考慮して、改正民事執行法では、財産開示手続きに応じない場合の罰則として刑事罰を設けることになりました。その詳細については、以下で説明します。 -
(2)民事執行法改正のポイント
民事執行法が改正されたことによって、未払いの養育費に対する強制執行がより実効性を高めることになりました。改正のポイントは、以下の3点です。
①財産開示に応じないときの罰則を強化
改正後の財産開示手続きでは、財産開示に債務者が応じないときの罰則を「6月以下の懲役または50万円以下の罰金」と規定しました。従来の罰則が行政罰であったのに対し、改正後の罰則は刑事罰となります。
刑事罰を科された場合には、前科になりますので、一定の職業についている方は、資格を制限されるなど大きなペナルティーを受けることになります。
そのため、罰則が強化されたことによって、債務者からの財産開示が期待できると考えられています。
②申し立て要件の緩和
改正前の財産開示制度では、仮執行宣言付き判決、支払督促、公正証書を有していたとしても、利用することができませんでした。
養育費の支払いの約束については、公正証書が用いられることが多いにもかかわらず、公正証書では、財産開示制度を利用することができなかったのです。
しかし、改正後の財産開示制度では、仮執行宣言付き判決、支払督促、公正証書であっても財産開示制度を利用することが可能になりました。この改正によって、養育費の未払いの事案で財産開示制度が広く利用が期待できると考えられております。
③第三者からの情報取得手続きを新設
財産開示制度は、債務者本人に財産の開示を求める制度であったため、罰則が強化されたとはいえ、本人が拒否したときには財産の内容は明らかになりません。
そこで、改正民事執行法では、新たに債務者以外の第三者から財産に関する情報の開示を得られる手続きを新設しました。
これによって、給料については、市町村、年金機構、共済組合などに、預貯金については、金融機関に情報開示を求めることで債務者の財産の内容を明らかにすることが可能になり、債務者本人からの情報提供に頼らずに債務者の財産の内容を把握できる余地が広がりました。
3、養育費不払いが多い現実
民事執行法が改正された背景として、離婚後の養育費の不払いが多くあり、ひとり親家庭が困窮しているという実情があるといわれています。
厚生労働省「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」によると、離婚した母子家庭のうち、養育費を受け取っている世帯は、全体の24.3%です。
これに対して、離婚をしてから一度も養育費を受け取ったことのない母子世帯は、56%であり、全体の半数以上を占めていることがわかります。
このような養育費の受取率の低さの要因としては、離婚時に養育費の取り決めをきちんと行っていないということが一つの原因として挙げられるでしょう。離婚後に養育費をきちんと支払ってもらうためには、離婚協議書などを作成し、それを公正証書の形にすることで法的拘束力を持たせることが効果的です。
民事執行法の改正によって、公正証書であっても財産開示制度の利用ができるようになりましたので、養育費の支払い合意については、公正証書にしておくことが非常に有効な手段となります。
4、養育費不払いに対する法的措置と手続き
養育費の支払いが滞ったときには、相手に対して支払いの催促をしなくてはなりません。しかし、それでも支払いがないようであれば、強制執行という法的手段によって未払いの養育費を回収することが考えられます。
以下では、未払いの養育費を回収する手段である強制執行の手続きについて説明します。
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(1)強制執行の申し立て
強制執行の申し立ては、以下の必要書類を債務者(養育費の支払い義務者)の住所地を管轄する裁判所に提出して行います。未払いの養育費を回収する場合には、強制執行(差し押さえ)の対象財産としては、債務者の預貯金口座や給与とすることがほとんどです。
- 申立書(表紙、当事者目録、請求債権目録、差押債権目録)
- 債務名義の正本
- 送達証明書
- 資格証明書など
債務名義としては、公正証書が作成されているときには、公正証書が債務名義となります。
離婚協議書しか作成していないときには、家庭裁判所に養育費の調停を申し立てる必要があります。
調停が成立したときには調停調書が、調停不成立となり審判となった際には審判書が債務名義となります。 -
(2)差押命令の送達
強制執行の申し立てが受理されると、裁判所から債務者や第三債務者に差押命令が送達されます。
たとえば、預貯金を差し押さえるときには、金融機関に差押命令が送達された時点で、対象の預貯金口座の取引は停止されて債務者が自由に出金することができなくなります。 -
(3)取り立て
債務者に差押命令が送達された日の翌日から1週間がたつと、債権者は、第三債務者から差し押さえをした債権を取り立てることが可能です。
取り立ての方法としては、通常は、第三債務者となった債務者の勤務先や金融機関に対して直接連絡をし、支払い方法や時期について相談をすることになります。
債権の取り立てが完了したときには、裁判所に対して取立完了届を提出し、強制執行の手続きは終了となります。
5、まとめ
養育費の不払いについては、離婚時に公正証書を作成しておくことで、回収の可能性が大幅に上がります。
ただし、公正証書があるだけでは実際に払われなければ養育費の回収はできませんので、養育費の支払い義務者に対する財産開示や第三者に対する財産情報の取得手続きなどを適切に行うことが重要です。
また、どういった財産を差し押さえるかという判断も的確に行う必要があります。
このような手続きを個人で行うのは非常に困難と思われますので、未払いの養育費の回収に関しては弁護士に依頼して行うことが有効です。離婚時であれば、将来の養育費回収を想定した公正証書を作成することができますし、強制執行の場面でも専門的な知識や経験を生かして適切に手続きを行うことができます。
未払いの養育費のことでお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 松山オフィスまでご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています