過労死に認定される死因は何? 会社へ慰謝料を請求できるケースとは
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愛媛労働局のデータによると、2021年中に愛媛県内で発生した労働災害の総数は1654件で、前年比127件の増加となりました。1654件中、松山市は696件と4割以上を占めています。
長時間の残業等による過労が原因で労働者が死亡してしまうケースは、一般に「過労死」と呼ばれています。労働災害の認定において、過労死の死因は「脳・心臓疾患」と「精神疾患」の2つに大きく分類され、死因によって適用される認定基準が異なります。
該当する死因に応じた認定基準の内容を踏まえて、労災保険給付の請求に必要な準備を整えましょう。また、会社に対する安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求も併せてご検討ください。
この記事では、過労死の2種類の死因と各労災認定基準、さらに会社に対する損害賠償請求の要件・金額などについて、ベリーベスト法律事務所 松山オフィスの弁護士が解説します。
(出典:「令和3年 業種別・署別労働災害発生状況」(愛媛労働局))
1、過労死が認定される2種類の死因と労災認定基準
過労死等防止対策推進法第2条では、以下の3つを「過労死等」と定義しています。
- ① 業務における過重な負荷による、脳血管疾患もしくは心臓疾患を原因とする死亡
- ② 業務における強い心理的負荷によって、精神障害が起こり、それが原因の自殺で死亡
- ③ ①または②の脳血管疾患、心臓疾患、精神障害
上記のうち③は死亡を伴わないケースのため、法律上の「過労死」とは、上記の①および②の2つと捉えることができます。
死因が①②のいずれであるかによって、適用される労災認定基準が異なるので注意が必要です。
以下では、脳・心臓疾患と精神疾患のそれぞれについて、労災認定基準の概要を解説します。
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(1)脳・心臓疾患
脳・心臓疾患に関する労災認定は、「脳血管疾患・虚血性心疾患等の認定基準」に基づいて行われます。
(参考:「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(厚生労働省))
脳・心臓疾患が労災認定の対象となるのは、以下のいずれかに該当する疾病です。(i) 脳血管疾患- 脳内出血(脳出血)
- くも膜下出血
- 脳梗塞
- 高血圧性脳症
(ii) 虚血性心疾患- 心筋梗塞
- 狭心症
- 心停止(心臓性突然死を含む。)
- 解離性大動脈瘤(りゅう)
上記のいずれかの疾病が、以下のいずれかによる明らかな過重負荷によって生じたと認められる場合に、脳・心臓疾患の労働災害が認定されます。
(a) 異常な出来事- 強度の精神的負荷を引き起こす、突発的または予測困難な異常な事態
- 緊急に強度の身体的負荷を強いられる、突発的または予測困難な異常な事態
- 急激で著しい作業環境の変化
(b) 短期間の過重業務
発症前おおむね1週間に、日常業務と比較して特に過重な負荷が発生したこと
(c) 長期間の過重業務
発症前おおむね6か月間に、著しい疲労の蓄積をもたらす、特に過重な業務に従事したこと
過労死の代表例である長時間労働に起因した死亡のケースでは、以下のいずれかに該当する場合に、業務と脳・心臓疾患発症の関連性が強いと評価されます(いわゆる「過労死ライン」)。
- 発症前1か月間の時間外労働が100時間を超えている場合
- 発症前2~6か月間において、1か月当たりの時間外労働が80時間を超えている場合
上記のいずれかに該当する場合には、脳・心臓疾患による死亡が過労死に当たり、労働災害が認定される可能性が高いです。
なお、上記に該当しなくても、発症前1~6か月間において、1か月当たりの時間外労働が45時間を超えている場合には、時間外労働が長くなればなるほど、業務と発症の関連性が徐々に強まるとされています。
この場合、長時間労働以外の他の負荷要因と併せて、総合的な観点から労働災害が認められる余地があるでしょう。 -
(2)精神疾患
精神疾患に関する労災認定は、「心理的負荷による精神障害の認定基準」に基づいて行われます。
(参考:「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(厚生労働省))
労災認定の対象となる精神疾患は、うつ病・急性ストレス障害などをはじめとして多岐にわたります。
対象となる精神疾患の発症前おおむね6か月の間に、業務によって強い心理的負荷があったと認められる場合には、原則として労働災害が認定されます。
業務による強い心理的負荷が認められるのは、原則として、以下のうち「①特別な出来事」または「②心理的負荷「強」」に該当する場合です。
ただし、「③心理的負荷「中」」に該当する場合も、他に「心理的負荷「中」」以上に当たる要因があれば、総合的に労働災害が認定される余地があります。① 特別な出来事- 対象疾病の発病前1か月間に、160時間超の時間外労働
- 対象疾病の発病前1か月未満の期間に、1か月当たり160時間超に相当する時間外労働
② 心理的負荷「強」- 対象疾病の発病前2か月間に、1か月当たり120時間以上の時間外労働
- 対象疾病の発病前3か月間に、1か月当たり100時間以上の時間外労働
- 1か月以上の連続勤務
- 2週間(12日)以上の連続勤務+連日深夜に及ぶ時間外労働
③ 心理的負荷「中」- 1か月間に80時間以上の時間外労働
- 2週間(12日)以上の連続勤務
④ 心理的負荷「弱」- 1か月間に80時間未満の時間外労働
- 休日労働
なお、精神疾患の発症と近接した時期において、以下のいずれかの事象が発生していた場合には、発症と業務の関連性が否定され、労災認定がなされないケースもあるので要注意です。
- 配偶者との離婚、別居
- 重い病気、ケガ、流産
- 配偶者、子ども、親、兄弟の死亡
- 配偶者、子どもの重い病気、ケガ
- 親類から犯罪者が出た
- 多額の財産の損失
- 天災、火災、犯罪被害
2、過労死の労災認定には証拠が必要|有効な証拠の例を紹介
過労死に関する労災保険給付の請求は、勤務先の所在地を所轄する労働基準監督署に対して行います。
請求の際には、給付内容に応じた請求書とともに、過労死(=長時間労働等に起因して死亡したこと)の証拠資料を提出することが必要です。
過労死の証拠として用いることができる資料の例を紹介します。
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(1)タイムカード等の記録
タイムカードや勤怠記録ソフトの記録は、労働時間に関する客観的な証拠となりますので、会社で導入されている場合には必ず取得しておきましょう。
ただし、タイムカードが導入されていない場合や、上司の指示などによって不正打刻を強いられていた場合には、別の証拠を集める必要があります。 -
(2)タイムカード等の記録がない場合にも利用できる証拠の例
正しいタイムカードや勤怠記録ソフトの記録を取得できない場合にも、以下の資料を過労死の証拠として用いることができます。
- 会社システムへのログイン履歴
- 業務メールの送信履歴
- 会社オフィスの入退館記録
- 交通系ICカードの乗車履歴
- 業務に関するメモ
タイムカード等がなくても諦めずに、広い視野を持って証拠の収集を行ってください。
3、過労死は会社に対する損害賠償請求も可能
過労死について労働災害が認定されると、遺族は労災保険給付を受けられます。
しかし、労災保険給付は基準に従って支給されるため、必ずしも損害全額を補填されるものではありません。
労災保険給付だけでは十分な補償を得られない場合には、会社に対する損害賠償請求をご検討ください。
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(1)会社に対する損害賠償請求の法的根拠
過労死についての会社に対する損害賠償請求は、以下の2つの法的根拠に基づき行います。
① 使用者責任(民法第715条第1項)
上司の監督ミスにより被災労働者に業務負荷が集中していた場合など、過労死が他の従業員等の故意・過失による行為に起因している場合、会社も被災労働者に対して「使用者責任」に基づく損害賠償義務を負います。
② 安全配慮義務違反(労働契約法第5条)
会社は労働者が生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるように、必要な配慮をする義務を負っています。労働者が過労死した場合、安全配慮義務違反に基づき、会社の損害賠償責任が認められる可能性があります。 -
(2)賠償の対象となる損害の種類
過労死について会社の責任が認められる場合、被災労働者の遺族は会社に対して、以下の損害の賠償を請求できます。
① 死亡慰謝料
過労死によって、本人と遺族が被った精神的損害の賠償を請求できます。
本人・遺族を合算した死亡慰謝料額の目安は、以下のとおりです。- 被災労働者が一家の支柱的な存在の場合:2800万円程度
- それ以外の場合:2000万円~2500万円程度
② 死亡による逸失利益
過労死によって、将来の労働により得られなくなった収入(逸失利益)の賠償も請求できます。
逸失利益の金額は、以下の計算式によって求められます。
逸失利益=1年当たりの基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
(参考:「就労可能年数とライプニッツ係数表」(国土交通省))
③ 治療費等
過労死の前に疾病の治療を受けていた場合、治療費等の実費相当額の賠償を請求できます。
④ 葬祭料
葬儀費用の実費相当額の賠償を請求できます。
4、過労死の損害賠償請求は弁護士にご相談ください
過労死に関する損害賠償請求は、極めて高額になることが想定されるうえ、労働審判や訴訟といった法的手続きに発展する可能性もあります。
そのため、できる限り早い段階で弁護士へのご相談をおすすめいたします。
弁護士は、過労死に関する客観的な損害額を適正に計算し、十分な証拠資料とともに提示して、ご遺族が正当かつ十分な補償を受けられるように尽力いたします。
ご家族が過労死してしまった場合は、すぐにでも弁護士までご相談ください。
5、まとめ
労働災害の認定上、過労死の死因は脳・心臓疾患と精神疾患の2種類に分類され、それぞれ認定基準が異なります。
適正額の労災保険給付を受給するには、過労死の証拠を十分にそろえたうえで、労働基準監督署に請求を行いましょう。
ただし、労災保険給付は損害の穴埋めに不十分なケースも多いため、会社への損害賠償請求も併せてご検討ください。
ベリーベスト法律事務所は、被災労働者のご遺族を全力でサポートし、正当な補償を一日も早く獲得できるように尽力いたします。
過剰な長時間労働によりご家族が過労死してしまい、会社に対する損害賠償請求をご検討中の方は、お早めにベリーベスト法律事務所 松山オフィスへご相談ください。
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