未成年の息子が暴行罪で逮捕! 弁護士による示談に意味はある?
- 暴力事件
- 暴行
- 逮捕
- 未成年
- 松山
暴行罪は、相手にケガをさせなくても成立しうる犯罪だということをご存じでしょうか。
愛媛県警が発表している資料によると、平成29年中に愛媛県下において、暴行容疑で補導や逮捕などを経て捜査対象となった未成年者の数は約23名でした。うち、14歳未満の少年が約12名、14歳以上の少年が約11名です。なお、被疑者が14歳以上の少年だった場合は、最終的には家庭裁判所の審判を仰ぐことになるものの、基本的な刑事手続きも行われる点に注意が必要です。
つまり、未成年者でも罪を犯せば、警察に逮捕され、身柄を拘束されてしまう可能性があるということです。ただし、その後の手続きの流れは、成人の場合と異なります。
万が一、暴行容疑で未成年の家族が逮捕されてしまったとしたら……、家族としては胸がつぶれてしまいそうなほどの出来事でしょう。今回は、未成年者の暴行事件における手続きの流れや弁護士の役割について、松山オフィスの弁護士が解説します。
1、暴行罪はどのような犯罪なのか?
暴行罪は、刑法第208条に「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」罪を問えると規定された犯罪です。なお、相手が負傷したときは、暴行罪ではなく「傷害罪」というさらに重い罪が問われてしまうことになりえます。
なお、暴行罪で規定されている「暴行」は、非常に該当する行為が多い概念といわれています。まずは、基礎知識として、どのような行為が暴行にあたるのかなど、暴行罪のことを知っておきましょう。
-
(1)何が「暴行」にあたるのか
刑法上で示す「暴行」とは、「物理的な有形力を行使すること」と解釈されています。つまり、物理的な力をもって相手を攻撃、もしくは危害を加えたとみなされれば「暴行」に該当しうるということです。
たとえば、殴る蹴るといった暴力が典型的ですし、誰もがわかりやすい「暴行」でしょう。しかし、身体に接触しなくても、特定の行為によって相手が負傷する可能性がある行為をすると、「暴行」とみなされてしまう可能性があります。
つまり、具体的には次のような行為で暴行罪が問われる可能性があります。- 相手を突き飛ばす
- 相手の腕を強く引く、胸ぐらをつかむ
- 相手の髪を引っ張る
- 相手に石を投げる
- 相手に水や塩などをかける
- 逃げ場のない狭い場所へ相手を追い込み、棒などを振り回す
-
(2)暴行罪には、どのような刑罰があるのか
暴行罪で有罪になると、次の4種類からいずれかの処罰を科されることになります。
- 2年以下の懲役(ちょうえき)……刑務所に収監され、労役作業を行う刑罰
- 30万円以下の罰金(ばっきん)……指定された現金を一括で徴収される刑罰
- 拘留(こうりゅう)……30日未満の身柄拘束を受ける刑罰。ただし労役作業は不要。
- 科料(かりょう)……1000円以上1万円未満の罰金を支払う刑罰。
2、未成年者の刑事事件が大人と違う点とは
未成年者が何らかの刑法に違反したとして逮捕されたとき、「少年事件」として扱われることになります。有罪となったときは、成人が罪を犯した刑事事件では罪を償わせることが目的として処罰を受けることになりますが、少年事件の場合は少年の更生をも目的として処分が下されます。
-
(1)未成年でも逮捕、勾留される
未成年者といえども、逮捕、勾留されます。「逮捕」は、警察によって最大48時間、身柄の拘束を受けることを指します。「勾留」は、検察の判断によって10日間(最大合計20日間)身柄の拘束を行うことを指します。逮捕から勾留の期間内に警察、検察による捜査が行われます。
-
(2)未成年者の刑事事件は全件送致される
少年事件では、捜査後、検察官によって全ての事件が家庭裁判所に送られます。少年審判を受けるためです。少年審判では、非公開の審判を通じ、本当に罪を犯したのかを確認したうえで、事件内容を再確認し、更生するためには何をすればよいのかが審理されることになります。
-
(3)未成年者を観察するための観護措置決定
少年審判を行う前に、未成年者を少年鑑別所に送り、その心身の状況などを調査する観護措置決定を行うことがあります。観護措置は、2週間から最長で8週間にわたり身柄を拘束されます。
少年鑑別所では、未成年者に事件の内容、原因を深く考えさせて反省のきっかけを与えたり、心理テストを行ったり、教育的な見地から指導、助言などさまざまな働きかけを行います。 -
(4)少年審判の開始と不開始
家庭裁判所は少年審判を開始するかどうかを決めます。非行の事実がないケースや、非行を行う恐れがないと十分判断された場合など、審判が不開始となることがあります。
審判が開始されると非公開の法廷で、裁判官、家庭裁判所調査官、保護者、付添人などが出席し、裁判官が少年や保護者に質問するなどして判断します。審判の場では、事件原因や動機の確認、反省を促すだけでなく、子どもの生い立ち、家庭環境などを確認し、本人が更生できる環境を審理します。 -
(5)少年審判における処分
家庭裁判所での審理の結果、その事案に応じて、次の各処分がなされます。
●処分なし
審理の結果、そもそも犯罪事実がない、犯罪事実があるとしても処分する必要がないなど、不処分となることがあります。
●保護観察
施設に収容する必要がないと判断され、社会内で保護司や保護観察官の指導を受けながら更生させるのが保護観察です。
●少年院送致
再犯の可能性が高く、社会内での更生が難しいと判断される場合は、少年院送致されます。
●逆送致
殺人など、犯罪が重大で非行歴も考慮されたうえ、刑事処分が妥当と判断されると、事件が検察官に送致され、成人と同様に起訴されることになります。
●その他の処分
その他にも未成年者の事情に応じて、児童施設などへ送致されることもあります。
3、少年事件での弁護士の役割
被害者がいる刑事事件においては、早く身柄を解放したいときや、不起訴を得たいときには、一般的に「示談(じだん)」が有効とされています。少年事件では、被害者との示談を成立させたからといって、直ちに処分が軽くなるとは言い切れませんが、決して無駄ではありません。示談等弁護活動を通じて、罪を犯してしまった未成年の子どもが不当な立場に追いやられることを避け、将来にかかるかもしれない負担を取り除くためのサポートになりえます。
-
(1)弁護士は付添人
少年事件の対応を依頼された弁護士は、弁護人ではなく「付添人」として少年審判に出席します。少年審判は原則公開されないうえ、弁護士がついていない事件では、基本的に検察や警察が作成した資料しか家庭裁判所が目にすることはできません。そのため、付添人として弁護士がいない少年事件では、子どもにとって不利な状況に陥りやすくなるといってよいでしょう。
-
(2)付添人としての弁護士の役割
付添人としての弁護士の役割は、成人の刑事事件における弁護人とは大きく異なります。もちろん、被疑者本人の利益を守る存在であることは同じですが、その守り方が違うのです。
成人事件における弁護士の役割は、依頼者本人が処罰を受けないようにすることか、処罰を軽くすることが最大の目的となります。一方、少年事件の場合、本人の更生のために家庭裁判所、調査官、保護者、学校、未成年者の雇用主などと協力して、未成年者が更生するための環境、平たくいえば、居場所の確保と人間関係の調整を行うことにも大きな役割です。
もちろん、少年が犯罪事実を争っている否認事件では、付添人といえども、大人の刑事事件の弁護人と同様の役割をすることになります。
付添人は主に次のような役割を担います。- 学校側と協議して退学処分とならないようにしてもらう
- 職場にかけあって仕事を解雇されないようにしてもらう
- 両親が離婚して親権者が協力的でないなら、もう一方の親に協力を求める
- 友人たちに嘆願書を書いてもらう
- 逮捕から勾留が決定するまでの72時間は家族も面会を禁じられるため、弁護士が接見し、本人との対話を通じて反省を促す
-
(3)少年事件における示談
被害者との示談交渉も依頼された弁護士が担う役割のひとつです。
成人事件では、示談により被害者の処罰感情が無くなったかどうかが決定的に重視されます。少年事件では、早期に示談が成立しても、それで直ちに少年が釈放されたり、処分が軽くなったりするとは限りません。しかし、罪を犯した子ども本人が更生するためには、被害者のことを忘れてはなりません。被害者に謝罪し、弁償し、示談をしてもらうことは、更生するためにも必要なことです。未成年者の刑事事件においても、やはり示談を成立させることは、とても重要なことなのです。
4、まとめ
未成年者が罪を犯したときは、2度と同じ過ちを繰り返さないよう、更生できる環境を模索する必要があります。
弁護士が少年事件の担当となったときは、家庭裁判所、保護者、学校など、未成年者をとりまく大人たちと協力して、更生を支援することができます。さらに、今後の生活に影響が出ないよう、学校側に事件を知られないようにしたり、もし知られている場合は、復学できるように交渉したりすることもあります。
未成年の子どもに暴行容疑がかけられているときや、逮捕されてしまったときは、ベリーベスト法律事務所松山オフィスにご相談ください。未成年者事件の手続きや少年の特性に精通した弁護士が、子どもの将来を守るべく力を尽くします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています