あおり運転は暴行罪に問われる可能性も。松山市の弁護士が解説
- 暴力事件
- あおり運転
- 暴行罪
- 松山
平成30年4月、愛媛県の国道で前方の乗用車に接近して蛇行したり、追い越してから急ブレーキを繰り返すなどいわゆる「あおり運転」をしたとして、松山南署は男を暴行容疑で書類送検しました。松山南署によれば、四国で初めてあおり運転に暴行罪を適用した事件ということです。
走行中に他の車の運転態度についカッとして、相手に対して圧力をかけるような運転をしたことがある方もいるかもしれません。しかし、「事故にはなっていないから大丈夫」と考えることは非常に危険です。現在、警察や検察庁はあおり運転に対して厳しい姿勢で臨んでおり、各種の法的責任を問われる可能性が高くなっています。
ここでは、あおり運転をすると、どのような責任を追及されるのかを、松山オフィスの弁護士が解説します。
1、あおり運転とはどのような運転なのか?
「あおる」という言葉は、もともと風を起こして火の勢いを強めるというように、他人を挑発し、過剰な反応をさせる行為をさします。一般的に「あおり運転」は、この字義どおりに理解されていることでしょう。すなわち、先行する自動車をあえて猛スピードで追尾したり、幅寄せをしたりすることで、被害者に「ぶつかるのではないか」という恐怖心を生じさせて、その状態から逃走するためスピードを上げざるを得ないように仕向ける行為です。
なお、警察では、他の運転者に対して嫌がらせなどの目的で行う危険や不安を生じさせる運転行為全般を「あおり運転」と定義しています。具体的には、追い回し行為、接近行為、割り込み行為、前に出てからの急ブレーキ行為、接近しての過剰なクラクションなどが、あおり運転に該当すると考えられています。
※令和2年6月より、あおり運転は厳罰化されています。詳しくは以下のコラムをご覧ください。
>あおり運転が厳罰化! 令和2年創設の妨害運転罪について詳しく解説
2、あおり運転をした者が追求される法的な責任
あおり運転を行った者が負わなくてはならない法的な責任には、大きくわけると以下の3種が考えられます。
- 刑事処分を受ける責任
- 行政処分を受ける責任
- 民事責任
それぞれがどのような責任を負う必要があるのかについて知っておきましょう。
-
(1)あおり運転の刑事責任
あおり運転をしたとして有罪になれば、刑事罰を受けることになります。具体的には、自動車運転処罰法、刑法、道路交通法の3つうち、状況に適した法律が該当することになります。
●自動車運転処罰法違反
正式名称は、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」です。第2条4号には、「通行妨害目的危険運転罪」が定められています。
ここで処罰されるのは、以下の4条件すべてを満たす行為です。- ①人または車の通行を妨害する目的があること
- ②走行中の自動車の直前に侵入し、その他通行中の人又は車に著しく接近すること
- ③重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為であること
- ④人の死亡、傷害の結果が生じていること
この行為に対する刑罰は、次のとおりです。
- 人を負傷させたとき……15年以下の懲役
- 人を死亡させたとき……1年以上の有期懲役(加重される場合を除き、上限は20年)
●刑法違反
あおり運転は、上記の自動車運転処罰法の要件に該当しなかったとしても、刑法上の暴行罪または傷害罪、傷害致死罪に該当する可能性があります。また、殺人罪が適用される可能性もあるでしょう。
①暴行罪(刑法第208条)
暴行罪は、人に対して有形力を行使する犯罪ですが、幅寄せ行為(東京高裁昭和50年4月15日判決、東京高裁平成16年12月1日判決)、他の車両を執拗に追跡する行為(東京高裁平成12年10月27日判決)などが、暴行罪に問われます。
暴行罪に対する刑罰は、罪状によって次の範囲で選択されます。- 2年以下の懲役(刑務所に入り一定の労働を課されます)
- 30万円以下の罰金(国に対してお金を支払います)
- 拘留(1日以上30日未満、刑務所に入ります)
- 科料(1000円以上1万円未満の金銭の支払いです)
たとえ相手がケガをしていなくても、あるいは物損事故が起きていなくても逮捕されることがある点に注意が必要です。
②傷害罪(刑法第204条)
あおり運転の結果、人にケガをさせた場合は傷害罪に問われることがあります。刑罰は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
③傷害致死罪(刑法第205条)
あおり運転で、人を死亡させた場合は傷害致死罪に該当することもあるでしょう。刑罰は、3年以上の有期懲役です。
④殺人罪(刑法第199条)
ごく限定的なケースですが、あおり運転で故意に人を死亡させたと認められれば、殺人罪に問われることになります。刑罰は、死刑、もしくは無期懲役、または5年以上の有期懲役です。
●道路交通法違反
あおり運転行為は、たとえそれによって人の死傷結果が生じない場合であっても、危険な運転行為として、以下のとおり道路交通法違反に該当します。
①車間距離の保持義務違反
運転者は、直前の車両が急に停止したときに追突を避けられる車間距離を保たなければならない義務があります(道路交通法26条)。あおり運転はこれに違反するものとして、5万円以下の罰金が科せられます(道交法120条1項2号)。高速道路上の場合は罰則が重くなり、3ヶ月以下の懲役または5万円以下の罰金となります(同法119条1項1号の4)。
②進路変更禁止義務違反
運転者は、後方を走行している車に急な減速や急な進路変更を強いる危険がある進路変更をしてはならない義務があります(道交法26条の2第2項)。あおり運転はこれに違反するものとして、5万円以下の罰金となります(道交法120条1項2号)。
③急ブレーキ禁止義務違反
運転者は、危険防止のためやむを得ない場合を除き、急停止や急減速となる急ブレーキをかけてはならない義務があります(道交法24条)。あおり運転はこれに違反するものとして3ヶ月以下の懲役または5万円以下の罰金になります(同法119条1項1号の3)。 -
(2)あおり運転の行政責任
あおり運転に対しては、公安委員会が免許取り消し、免許停止という行政処分を行うことができます。この処分は違反点数の累積を問いません。
自動車運転処罰法に違反する場合(道交法103条2項2号)や道交法に違反する場合(同103条1項5号)は、もちろん行政処分を受けます。さらに、免許を受けた者が「自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせる恐れがあるとき」は免許の停止、免許取り消しをすることができます(同103条1項8号)。この処分を受ける危険な運転者のことを「危険性帯有者」といいます。 -
(3)あおり運転の民事責任
あおり運転で、他人のものを壊してしまったり、人の死傷の結果を生じさせたりする場合は、民事上の損害賠償責任を負います。
もっとも注意しなければならないのは、あおり運転の結果、物損もしくは人身事故を起こしてしまったときは、加害者の悪意に基づくものとして、任意保険はもとより、自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)の適用も否定される可能性があります(自動車損害賠償保障法14条)。つまり、加害者が自腹で損害賠償を負担しなくてはならない可能性が高いと考えられます。
また、人の死傷の結果が生じていなくとも、道交法違反の違法な運転行為で、被害者に恐怖心を与えている以上、慰謝料を請求される可能性もあるでしょう。
3、あおり運転で逮捕、起訴されるのか?
あおり運転は、車を利用して面識のない被害者に対して加害している悪質な行為であり、人の生命・身体を脅かす行為です。警察庁は、あおり運転に対して「あらゆる法令を駆使して、厳正な捜査を徹底する」と宣言しています。
特に近年は、ドライブレコーダーの普及に伴い、証拠の保全がより容易になりました。特に取り締まりを受けず帰宅できたとしても、後日逮捕されることもあるでしょう。直接警察から連絡がなくとも、SNSなどでナンバーがわかる動画をアップされてしまい、結果、周囲に知れ渡ってしまうケースや、最終的には逮捕に至るケースもあるようです。
また、あおり運転によって暴行容疑などで逮捕されるときは、証拠隠滅と逃亡の危険があると判断されやすいため、逮捕、勾留される可能性が高い傾向があるようです。勾留された場合は、逮捕期間も含め最長で23日間は警察の留置場に拘束され、その後も被告人として拘束を受ける可能性があります。身柄拘束が長引くと、職場を解雇される危険性は否定できません。
また、起訴されるとたとえ罰金刑であっても前科がつくことになり、将来的に大きな不利益となります。
身柄拘束期間を短縮し、起訴を回避するためには、弁護士を依頼して、早期に被害者との示談を成立させるなどの方策をとる必要があります。ひとりで抱え込まず、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
4、まとめ
あおり運転の厳罰化は進み、万が一事故を起こした場合、一般の交通事故と異なった非常に悪質であるとみなされることがあります。また、事故に至らなくても、その罪や責任が重く問われることになる可能性が高いでしょう。
自動車事故だから保険会社に任せておけばよいなどと安易に考えてはいけません。道路交通法違反ではなく、刑法犯として罪を問われる可能性があります。そして、もし有罪となれば、たとえ罰金刑であっても前科がつくということです。
もしも、あなたがあおり運転をしてしまったという心当たりがあり、不安があれば、ベリーベスト法律事務所 松山オフィスに相談してください。刑事事件や交通事件に対応した実績が豊富な弁護士が、適切なアドバイスをするとともに、強力にサポートします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています