在宅起訴とは? 実刑になる可能性や弁護士がサポートできること
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何らかの罪を犯してしまうと、警察に逮捕されるというイメージをお持ちの方もいますが、必ずしもすべての犯罪で逮捕がなされるというわけではありません。逃亡や証拠隠滅のおそれのないケースや軽微な事件に関しては、逮捕されることなく捜査が行われ、その後、起訴または不起訴の判断がなされます。
逮捕されることなく起訴されることを「在宅起訴」といいますが、在宅起訴をされた場合には、その後の裁判によって実刑になることはあるのでしょうか。
本コラムでわかることは、大きく以下の3つです。
・在宅起訴とは、身柄事件との違い
・在宅起訴で実刑判決を受ける可能性
・在宅起訴で実刑判決を回避するためには
ベリーベスト法律事務所 松山オフィスの弁護士が解説します。
1、在宅起訴とは
在宅起訴とは、どのようなことなのでしょうか。また、在宅起訴をされた場合には、逮捕勾留されている状態での起訴と何が違うのでしょうか。以下では、在宅起訴の概要について説明します。
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(1)在宅起訴の概要
在宅起訴とは、犯罪の嫌疑をかけられた被疑者が捜査機関に身柄拘束をされることなく、起訴されることです。
被疑者の身柄を国が拘束をするということは、被疑者の身体の自由を奪う重大な処分ですので、それを行うためには、法律上定められている一定の要件を満たす必要があります。そのため、逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれがないケースでは、法律上の要件を満たさず、被疑者を逮捕または勾留することはできません。また、軽微な事件についても身柄拘束の必要性がないと判断され、在宅起訴となることがあります。
「令和5年版犯罪白書」によると、令和4年、過失運転致死傷等および道路交通法違反を除くすべての被疑者のうち、逮捕によって身柄が拘束された事件の割合は、全体の34.3%でした。罪を犯すと逮捕されるというイメージをお持ちの方も多いかもしれませんが、実際には、逮捕されるのは、全体の3分の1程度となります。
(出典:「令和5年度版犯罪白書」(法務省))
なお、在宅起訴であったとしても、有罪になれば前科が付くことになります。 -
(2)在宅事件と身柄事件の違い
犯罪の嫌疑をかけられた被疑者が身柄拘束を受けない場合を「在宅事件」といい、被害者が身柄拘束を受ける場合を「身柄事件」といいます。在宅事件になるか身柄事件になるかによって以下のような違いが生じます。
① 私生活への不利益の程度
身柄事件になった場合には、逮捕による身柄拘束で最長3日間、その後の勾留および勾留延長によって最大で20日間の合計23日間も身柄拘束を受けることになります。その間は、原則として警察署の留置施設から出ることができず、家族や弁護士との面会や手紙以外に外部と連絡をとることはできません。そのため、学生や会社員の方が身柄事件になってしまった場合には、私生活に関して多大な不利益が及ぶことになります。
これに対して、在宅事件の場合には、被疑者の身柄は拘束されませんので、犯罪の被疑者になってしまったとしても普段どおりに生活をすることができます。警察や検察からの取り調べの求めに対しては応じる必要はありますが、身柄事件に比べると私生活への影響は圧倒的に小さいといえます。
② 起訴されるまでの期間
身柄事件の場合には、身柄拘束期間が満了する前に、検察官は起訴または不起訴の判断を行うことが多いです。これに対して、在宅事件については、いつまでに起訴または不起訴をしなければならないという期限はありませんので、捜査が長引くケースでは1年以上も起訴または不起訴の判断が先延ばしになることもあります。
このように在宅起訴の場合には、起訴されるまでの期間が長くなる傾向にあるという特徴があります。
③ 国選弁護人の利用の可否
身柄事件であっても在宅事件であっても弁護人を選任することができるという点には違いはありません。しかし、国選弁護人を利用することができるのは、身柄事件または起訴された事件に限られますので、捜査段階の在宅事件では国選弁護人を利用することはできせん。
在宅事件の被疑者が弁護士に弁護をしてもらいたい場合には、私選の弁護人を探し、依頼する必要があります。
2、在宅起訴で実刑判決を受ける可能性は?
在宅起訴というと軽微な犯罪のイメージがありますが、在宅起訴された場合に、実刑判決になることはあるのでしょうか。
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(1)在宅起訴でも実刑判決になることがある
日本の刑事裁判では、検察官によって起訴されると99%以上の割合で有罪判決が下されることになります。これは、在宅起訴であっても身柄起訴であっても変わりはありません。そして、判決になった場合には、実刑判決または執行猶予判決のいずれかが言い渡されることになります。
実刑判決になるケースとしては、殺人などの重大な事件、前科がある事件など比較的悪質なものが対象になることが多いです。このようなケースでは、捜査段階においても逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれが高いと認められるため、被疑者の身柄を拘束して捜査が進められることも多いのが特徴です。
これに対して、在宅事件の場合には、比較的軽微な事件が中心となる傾向にあり、身柄事件に比べた場合には在宅起訴された事件がいきなり実刑になる可能性が高いとは言えません。
しかし、在宅起訴された事件であっても、実刑判決になることは十分にありますので、実刑判決を回避するための弁護活動が重要です。 -
(2)在宅起訴で実刑判決を回避するためにできること
在宅起訴された方が実刑判決を回避するためには、以下のような結果を目指すことになります。
① 執行猶予付きの判決を獲得する
在宅起訴された方が起訴された事実を認めている場合には、執行猶予付きの判決を獲得することにより、実刑判決を回避することを目指します。
執行猶予付きの判決の対象になるのは、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金の言い渡しを受けた場合に限られます。また、執行猶予を付けることができるケースであっても、執行猶予を付けるかどうかは裁判官の裁量に委ねられています。裁判官が執行猶予を付けるかどうかは、以下のような事情等を考慮しています。- 犯行に至る経緯
- 犯行の動機、目的
- 犯行の計画性の有無
- 犯行の手段、方法、態様
- 結果発生の有無、程度
- 被害回復の有無
- 被告人の性格、年齢、境遇
- 犯罪の軽重
- 犯罪後の状況
- 前科前歴
そのため、在宅起訴された場合には、上記の考慮要素を具体的に主張、立証していくことによって裁判官に対し執行猶予付き判決を求めていくことになります。
② 無罪判決を獲得する
在宅起訴をされた方が起訴された事実を認めていない場合には、無罪判決の獲得を目指すことになります。日本の刑事裁判の有罪率が99%以上と高いのは、検察官が有罪になる見込みのある事件に絞って起訴をしていることが要因です。そのため、検察官が証拠関係から有罪になる可能性が高いと判断した事件について、無罪判決を獲得するのは容易ではありません。
在宅起訴の場合には、起訴されるまでにある程度の時間がありますので、その間に弁護士に依頼をするなどして、無罪判決獲得を目指したサポートを受けることが大切です。
3、在宅起訴の流れ
在宅起訴をされる場合には、以下のような流れで刑事手続きが進行します。
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(1)警察での取り調べ
在宅事件の場合には、事件が発覚後、警察から取り調べのために出頭してほしい旨の連絡がありますので、それに応じます。正当な理由なく取り調べのための出頭を拒否していると、逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれがあると判断され、逮捕される可能性もありますので、注意しましょう。
取り調べの回数は事件の内容によって異なりますが、犯行を認めているケースであっても少なくとも2~3回程度行われるのが一般的です。 -
(2)検察での取り調べ
警察での取り調べが終了すると、事件記録が検察官に送致されます。このことを一般的には「書類送検」などと表現することもあります。検察に事件が送致されると、今度は、検察官から呼び出しがありますので、検察に出頭し取り調べを受けます。
被疑者本人が犯行を認めているケースでは、検察官の取り調べは1回だけで終了することが多いです。
そして、検察官は、これまでの取り調べの結果を踏まえて、事件を起訴するか、もしくは不起訴にするか、判断をします。不起訴処分となった場合には、その時点で刑事手続きは終了となり、前科が付くこともありません。 -
(3)裁判所から起訴状の送達
検察官によって在宅起訴がされた場合には、裁判所から起訴状謄本が送られてきます。起訴状には、罪名や公訴事実が記載されていますので、内容を確認して、今後の刑事裁判に向けた準備を行っていきます。
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(4)弁護人選任に関する回答書の返送
裁判所から送達される書類の中には、起訴状謄本のほかに「弁護人選任に関する回答書」という書類が入っています。刑事裁判では、被告人の権利を守るため、弁護人を選任する権利が認められています。起訴された被告人は、国選弁護人または私選弁護人のどちらを希望するのかを記載し、書類を裁判所に返送します。
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(5)刑事裁判
在宅起訴された後は、裁判所において審理が行われます。
なお、100万円以下の罰金または科料に相当する事件については、被疑者本人の同意がある場合に限り、略式裁判という書面審理のみの簡易かつ迅速な裁判手続きが行われることもあります。
4、在宅起訴で実刑判決を回避するために弁護士がサポートできること
在宅起訴をされた場合には、実刑判決を避けるためにも弁護士によるサポートを受けることをおすすめします。
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(1)被害者との間で示談交渉を行う
被害者がいる犯罪では、被害者と示談がなされているかが、実刑判決を回避するために重要な考慮要素となります。しかし、被害者は、加害者に対して怒りや恐怖などの感情を有していますので、加害者本人が被害者と接触することは困難なケースが多く、接触できたとしても示談に応じてもらうのは容易ではありません。
このような場合には、弁護士による示談交渉がおすすめです。弁護士を示談交渉の窓口とすることによって、被害者も安心して示談交渉を進めることができますので、示談成立の可能性が高まります。
在宅起訴の場合には、起訴されるまでにある程度の期間がありますので、時間に余裕をもって示談交渉を行えるという点で身柄事件に比べると示談を成立させやすいといえます。 -
(2)取り調べに対するアドバイス
在宅事件であっても、警察や検察といった捜査機関から出頭を求められれば、それに応じて取り調べを受ける必要があります。しかし、多くの方が取り調べを受けるのは初めての経験になりますので、どのようなことを聞かれて、どのように答えればよいのかなどわからないことが多く不安な気持ちでいっぱいだと思います。
少しでも安心して取り調べに臨むためにも弁護士のアドバイスを受けるようにしましょう。取り調べでは、供述調書という書面が作成されることになりますが、これはその後の裁判において重要な証拠となります。不利な供述調書がとられてしまうと、それが誤りであったとしても後日内容を撤回することは困難です。取り調べで適切な対応をとるためにも弁護士への依頼を検討しましょう。
5、まとめ
在宅起訴となった場合でも、実刑判決になることもありますので、犯罪の嫌疑をかけられた場合には、早期に弁護士に相談をすることをおすすめします。在宅事件の場合には、身柄事件に比べて時間的にも余裕がありますので、実刑判決の回避に向けてできることがたくさんあります。
少しでも有利な結果になるようにするためにも、まずは、ベリーベスト法律事務所 松山オフィスまでご相談ください。
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