財産がない場合、相続手続きはしなくてもいい?

2022年03月22日
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財産がない場合、相続手続きはしなくてもいい?

松山市を管轄する高松国税局が公表している資料によると、令和元年中に高松国税局管内で亡くなった方(被相続人)の数は、5万872人でした。このうち、相続税の課税対象となった被相続人の数は、3448人でしたので、ほとんどの方は、相続税の課税対象外であったことがわかります。

相続が発生した場合には、相続人全員による遺産分割協議によって遺産の分割方法を決めることになります。また、相続財産の総額によっては、税務署に相続税の申告が必要になることがあります。しかし、相続財産がほとんどないという場合にもそのような手続きが必要になるのでしょうか。相続財産がほとんどないからといって、何も手続きをしないと思わぬ不利益を被るおそれがありますので、必要となる手続きを知っておくことが大切です。

今回は、相続財産がない場合に必要となる相続手続きについて、ベリーベスト法律事務所 松山オフィスの弁護士が解説します。

1、相続と相続税の仕組み

相続が発生した場合には、相続財産の金額に応じて相続税が課税されることになりますが、相続税はどのような仕組みで課税されるものなのでしょうか。以下では、相続税の仕組みについて説明します。

  1. (1)相続財産が基礎控除以下なら相続税申告は不要

    相続税とは、被相続人から相続などにより財産を得た場合に、取得した財産に対して課税される税金です。遺産を相続した場合に、すべての相続人が相続税の申告を要するかというとそうではありません相続税法上、相続財産が一定金額以下であれば、相続税額はゼロとなり、相続税の申告手続きも不要とされています。これを相続税の基礎控除といいます。
    相続税の基礎控除は、以下の計算方法によって算出します。

    3000万円+(600万円×法定相続人の数)=基礎控除額


    たとえば、被相続人の遺産が4000万円あり、相続人が配偶者、長男、長女の3人であった場合には、基礎控除の額は、4800万円になります。遺産と比較すると基礎控除額が上回りますので、相続税の課税はなく、相続税の申告も不要です。

  2. (2)相続税の申告期限

    相続財産が基礎控除の額を上回る場合には、原則として、相続税の申告義務が生じます。相続税の申告には、期限が定められており、相続人が被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内に相続税申告書を提出して行わなければなりません

    期限内に申告をしなかった場合や取得した財産よりも少なく申告した場合には、本来支払わなければならない相続税に加えて、加算税や延滞税を支払わなければならない可能性がありますので注意しましょう。

2、遺産は0円だが、生前贈与された人がいる場合

被相続人の遺産が0円であるが、生前に被相続人から贈与を受けた人がいる場合には、どのような手続きが必要になるのでしょうか。

  1. (1)特別受益として持ち戻しの対象になる?

    特別受益とは、被相続人から遺贈や生前贈与によって、特定の相続人が受けた利益のことです。特別受益がある場合には、相続人同士の公平を図るために、被相続人が相続開始時に有していた財産に特別受益の価額を加えたものが遺産分割の対象となる相続財産とみなされます。このように、特別受益を相続財産に加える制度のことを「特別受益の持戻し」といいます。

    ただし、特別受益の持戻しは、特別受益を遺産とみなして相続財産を計算する制度ですので、実際に、特別受益によって受けた利益を相続財産に戻すものではありません。すなわち、特別受益者は、他に遺産がある場合には、特別受益を受けた分だけ取得することができる遺産が減ることになりますが、生前贈与を受けたお金を他の相続人に渡さなければならない、ということはないのです

    したがって、遺産が0円である場合には、特別受益の持戻し制度を利用したとしても、他の相続人が取得することができる遺産はありませんので、遺産分割協議を行う必要はありません

  2. (2)遺留分侵害額請求

    遺産分割協議は不要だとしても、特定の相続人だけ生前贈与によって利益を得ており、そのほかの相続人がまったく遺産を取得できないということは、酷な結果だといえるでしょう。

    このように、不平等な贈与などによって遺留分を侵害された相続人は、受贈者に対して、遺留分侵害額請求を行うことができます

    なお、法律上遺留分を認められているのは、兄弟姉妹以外の法定相続人です。そのため、以下に該当する相続人が遺留分侵害額請求を行うことができる余地があります。

    1. ① 配偶者
    2. ② 子ども
    3. ③ 直系尊属


    なお、生前贈与については、相続人に対してなされたものについては相続開始から10年前まで、相続人以外の人に対してなされたものについては相続開始から1年前までの期間に限って、遺留分侵害額請求の対象になります。また、遺留分侵害額請求は、遺留分の侵害があったことをしたときから1年以内に行使しなければ、時効によって権利が消滅してしまいますので、早めに対応することが必要です。

3、金銭は0円だが、不動産だけある場合

現金、預貯金などの金銭は0円であるものの、不動産だけが遺産として存在する場合には、どのような手続きが必要になるのでしょうか。

  1. (1)遺産分割協議

    遺産には、現金や預貯金といった金銭だけでなく、土地や建物といった不動産も含まれます。そのため、被相続人の遺産として不動産が存在している場合には、その分割方法を決めるために、遺産分割協議が必要になります
    遺産分割において、不動産を分割する方法としては、以下の4つの方法があります。

    ① 現物分割
    現物分割とは、遺産をそのままの形で分ける方法ですたとえば、預貯金は長男、不動産は次男、株式は長女というように分ける場合です

    不動産しか遺産がない場合には当該不動産を分筆して、分筆後の土地を相続人がそれぞれ取得する方法も現物分割の一種です。しかし、建物は、物理的に分割することができないため現物分割の方法をとることができませんし、土地も細分化することによって資産価値が著しく減少するなどの不利益が生じることがあります。

    ② 代償分割
    代償分割とは、相続人の一人が当該遺産を取得する代償として、他の相続人に対して法定相続分に相当する金銭を支払う方法をいいます。遺産が不動産だけという場合には、不動産を取得する相続人が負担しなければならない代償金が高額になってしまう可能性がありますので、代償金の支払い能力がなければ採用することができない方法です。

    ③ 換価分割
    換価分割とは、不動産を売却して、売却して得たお金を相続人同士で分ける方法です。換価分割は、不動産を売却してしまう方法ですので、不動産の評価方法をめぐって争いになるリスクはなく、法定相続分に応じて金銭を分配すればよいため公平な分割方法といえます。

    ④ 共有分割
    共有分割とは、不動産を相続人ひとりの単独所有にするのではなく、複数の相続人で共有するという方法です。相続開始によって、遺産である不動産は、相続人による共有状態となりますので、遺産分割協議などの手続きを行わなければ、相続人全員による共有状態のままとなります。

  2. (2)相続税の申告

    相続財産である不動産の評価額が基礎控除を超える場合には、相続税の申告手続きが必要になります。相続税の申告が必要になる場合であっても、小規模宅地等の特例を利用することによって、相続財産の総額が基礎控除以下になる場合には、相続税が課税されない可能性もあります。ただし、この場合であっても相続税の申告手続きは必要となりますので、忘れずに行うようにしましょう。

4、マイナスの財産がある場合

被相続人にプラスの財産がなく、借金などのマイナスの財産がある場合には、どのような手続きが必要になるのでしょうか。

  1. (1)何もしなければ法定相続分に応じて相続する

    被相続人に借金などのマイナスの財産がある場合、その財産についても相続の対象となる相続財産に含まれます。そのため、相続人が何も手続きを行わなければ、相続人の法定相続分の割合に従って、当然に相続人に引き継がれることになります。

    遺産分割協議によって、借金を負担する相続人を決めたとしても、債権者との関係においては、遺産分割協議で決めた内容を主張することができません。そのため、債権者から法定相続分に応じた支払いを求められた場合には、それに応じなければなりません

  2. (2)相続をしたくなければ相続放棄の手続きを

    マイナスの財産を相続したくないという場合には、相続放棄という手続きを行う必要があります。相続放棄をすることによって、プラスの財産やマイナスの財産といったすべての相続財産を相続しないことになります。被相続人にプラスの財産が一切なく、マイナスの財産しかないような場合には、単純承認によって、被相続人の負債を引き継ぐメリットは何もありませんので、特別な理由がない限り、相続放棄を行うのがよいでしょう。

    相続放棄をするためには、家庭裁判所に相続放棄の申述を行わなければなりません。相続放棄の申述は、相続の開始があったと知ったときから3か月以内に行わなければなりません。期限が短いため、相続放棄を検討している方は早めに手続きを行うようにしましょう。

5、相続のご相談なら弁護士へ

ご家族が亡くなり相続が発生した場合には、まずは弁護士に相談をすることをおすすめします。

  1. (1)相続財産調査が可能な場合がある

    被相続人が亡くなり、相続すべき遺産は何もないと思っていたとしても、実は相続人が気付いていないだけで、多額の資産が存在することもあります。相続には期限はありませんのでプラスの財産だけであれば特に問題はありません。しかし、被相続人に多額の借金があった場合には、相続開始があったことを知ったときから3か月という相続放棄の期限内に所定の手続きを行わなければ、被相続人の借金を相続しなければならなくなります。

    弁護士であれば、マイナスの財産についても一定程度調査を行うことができますので、期限が過ぎたことにより相続放棄をすることができない、という不利益を回避することができます

  2. (2)相続手続きのサポートを受けられる

    少ないながらも相続財産が存在していた場合には、その分割方法を決めるために遺産分割協議が必要になります。遺産が少なければ争いも少ないというわけではなく、遺産の多寡にかかわらず、遺産分割においては争いが生じることがあります

    このような場合には、当事者同士の話し合いでは感情的になってしまい、冷静な話し合いを進めることができないことがあります。しかし、弁護士であれば、話し合いで解決困難な場合は、遺産分割調停等の法的手続きを案内・代理することも可能です。

    相続が発生したもののどのような手続きを行えばよいのかわからないという場合には、まずは弁護士に相談をするとよいでしょう。

6、まとめ

相続が発生した場合には、遺産分割協議、相続税の申告、相続放棄の申述など相続人の方が置かれている状況に応じて、さまざまな手続きが必要になります。相続財産がないという場合にもしっかりと相続財産調査を行う必要がありますので、まずは弁護士に相談をすることをおすすめします。

相続に関してお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 松山オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています