地上権と賃借権の違いは? 土地を相続するときに把握しておきたい用語

2021年06月22日
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地上権と賃借権の違いは? 土地を相続するときに把握しておきたい用語

愛媛県が公表している地価調査の結果によると、令和2年度の愛媛県内の基準地の地価のうち、住宅地、商業地の上位5位までを松山市内の土地が占めています。また、工業地においても松山市内の基準値が大部分を占めているようです。相続時の遺産に松山市内の不動産が含まれる場合には、地価の高い地域だと高額な相続税が課税されるかもしれません。

土地を相続することになったとしても、被相続人の権利がその土地の所有権ではなく、「地上権」や「賃借権」である場合があります。これらの権利は、土地を借りる権利であることから「借地権」と呼ばれることもある権利です。相続財産に借地権が含まれる場合には、どのような注意点があるのでしょうか。

今回は、地上権や賃借権など土地を相続するときに把握しておきたい用語について、ベリーベスト法律事務所 松山オフィスの弁護士が解説します。

1、地上権と賃借権の違い

土地を借りて使用する権利のことを「借地権」といいますが、借地権は、主に「地上権」と「賃借権」という権利に分類することができます。

  1. (1)地上権とは

    地上権とは、他人の土地において工作物または竹木を所有するために、その土地を使用することができる権利のことをいいます(民法265条)。

    地上権の存続期間については、民法上の規定はありませんので、当事者の合意によって自由に期間を設定することができます。しかし、建物所有を目的とする地上権については、民法ではなく借地借家法が適用されますので、存続期間の下限は、原則30年とされます(借地借家法2条1号、3条)。

    ただし、平成4年7月31日以前に建物所有目的の地上権を設定した場合には、現在の借地借家法ではなく、旧借地法が適用されますので、契約期間は、非堅固な建物(木造等)が20年、堅固な建物(鉄筋コンクリート造等)が30年です。なお、契約期間の定めがない場合には、原則として、非堅固な建物が30年、堅固な建物が60年となります

  2. (2)賃借権とは

    賃借権とは、賃借人がある物の使用・収益をする対価として賃貸人に対して賃料を支払うことを約束する契約のことをいいます(民法601条)。かんたんにいえば、当事者間において有償で物の貸し借りをする契約のことです。

    賃借権も地上権と同様に建物の所有を目的とする土地賃借権については、民法ではなく借地借家法が適用されることになります。

  3. (3)地上権と賃借権の相違点

    地上権と賃借権は、いずれも土地を利用することができる「借地権」という権利である点で共通し、建物所有目的の借地権に関しては、いずれも借地借家法が適用されるという共通点があります

    しかし、地上権と賃借権は、権利の性質が異なりますので、それに応じた相違点もいくつか存在します。講学上、地上権は、「物権」という性質の権利であり、賃借権は、「債権」という性質の権利に分類されます。物権は、当事者だけでなく第三者に対しても主張することができる権利ですが、債権は、契約当事者間でしか主張することができない権利です。

    そのため、地上権は、土地所有者の承諾を得ることなく地上権を譲渡することもできますし、土地を第三者に貸すということも可能です。

    しかし、賃借権は、契約当事者間でしか主張することができない権利です。そのため、土地所有者(賃貸人)の承諾を得ることなく、土地を第三者に貸すことはできませんし、土地上の建物の建て替えや売却も原則として行うことはできません。

2、区分地上権と法定地上権

地上権には、「区分地上権」や「法定地上権」といった種類の地上権が存在します。聞きなれない用語ですので、なかなかイメージすることが難しいかもしれません。以下では、「区分地上権」と「法定地上権」についてわかりやすく説明します。

  1. (1)区分地上権とは

    区分地上権とは、土地を利用する地上権のうち、地下または空間の上下の範囲を定めて設定する権利のことをいいます。土地の利用方法としては、土地上に建物を建てる以外にもさまざまな利用方法があります。

    たとえば、地下鉄や貯蔵庫などは土地の地下を利用する方法ですし、モノレールや高架鉄道などは土地の空中部分を利用する方法です。

    このように土地上ではなく、土地の地下または空間に工作物を所有するために設定される地上権が区分地上権と呼ばれるものです。

    区分地上権は、物権ですので、区分地上権を設定した地上権者は、対象となる範囲については自由に利用および譲渡をすることができます。地下鉄の事業者が、土地の所有者の承諾なく地下に立ち入って工事を行うことができるのも、区分地上権が設定されているからです。

  2. (2)法定地上権とは

    法定地上権とは、一定の要件を満たす場合に、当事者の契約ではなく、民法の規定によって当然に地上権が設定されたものとみなされる権利のことをいいます(民法388条)。

    たとえば、自宅(土地・建物)を購入したものの、住宅ローンの返済ができない状態が続くと、金融機関が抵当権に基づいて競売を申し立てることがあります。

    競売の結果、土地の所有権が第三者に移転してしまうと、建物の所有者と土地の所有者が別々という事態が生じます。そのままの状態では、建物所有者が土地を利用する権利はないため、土地の所有者から建物収去を求められた場合には応じなければなりません

    しかし、これでは建物所有者の保護に欠けることから、民法の規定によって強制的に建物のために地上権を生じさせたものが法定地上権なのです。

    法定地上権が成立するためには、以下のような要件を満たす必要があります。

    1. ① 抵当権の設定時に、土地上に建物があること
    2. ② 抵当権の設定時に、土地と建物の所有者が同一であること
    3. ③ 土地、建物の両方または一方に抵当権が設定されたこと
    4. ④ 抵当権の実行によって、土地と建物の所有者が別々になったこと


3、借地権の相続で注意するべき点

借地権は、被相続人の相続財産に該当しますので、預貯金や不動産などと同様に相続人が相続することができる財産です。ただし、借地権を相続する場合には、以下のような点に注意が必要です。

  1. (1)借地権の相続では地主の許可は不要

    借地権を相続する場合には、地主から特別な許可を得る必要はありません。借地権も相続財産に含まれますので、特別な許可を要することなく相続することができます。地主に対しては、「借地権を相続しました」と伝えるだけでよいでしょう。

    また、地主から「お父さんが亡くなったから土地を返してほしい」などと言われたとしても、土地を返還する必要はありません。借地権設定契約等で定められた存続期間が満了するまでは、その土地を正当に利用する権利があるからです。

    なお、借地上に建物がある場合には、被相続人名義から相続人名義に相続登記をする必要がありますので、忘れずに手続きを行いましょう。

  2. (2)借地権は相続税の課税対象

    借地権を相続する場合には、土地を相続した場合と同様に、相続税の課税対象となります。

    借地権の相続税評価額は、「土地の自用地評価額×借地権割合」という計算によって求めます。土地の自用地評価額とは、借地権の負担のない土地の更地価格のことをいいます。借地権割合は、国税庁のホームページ上で掲載されている路線価図から確認することが可能です。

    借地権を相続することになった方の多くは、所有している土地ではないから相続税は課税されないと誤解していることがあります。土地の評価額が高額になると借地権の相続税評価額も高額になることもありますので、そのような場合には、生前に十分な相続税対策を行っておく必要があるでしょう

  3. (3)空き家を相続する場合の注意点

    借地権を相続したものの借地権付き建物に居住する予定はなく、空き家のまま放置する場合には注意が必要です。

    借地権のうち、定期借地権を設定していた場合には、契約期間途中の解約はできませんので、空き家を相続したとしても、契約期間が満了するまでの間は、地主に対して、引き続き地代を支払っていかなければなりません。契約期間が何十年も残っているような場合には、地代の負担が大きくなりますので、建物の活用方法などを十分に検討してから相続をするようにしましょう。

4、土地の相続は弁護士へ相談を

被相続人の相続財産に不動産が含まれる場合には、不動産の評価方法や分割方法などで相続人との間でトラブルが生じることがあります。そのため、土地の相続に関しては弁護士に相談をすることがおすすめです

弁護士に遺産分割手続きを依頼することによって、弁護士が代理人となって他の相続人との話し合いを進めることができます。直接ご本人が対応する必要がなくなりますので、面倒な交渉をしなければならないという精神的負担からも解放されるでしょう。

また、相続財産に借地権が含まれる場合でも、弁護士であれば適切に遺産分割手続きを進めることができます。借地権は、相続人との関係だけでなく地主との関係でもトラブルになりやすい権利ですので、相続時には、地主に対する関係でも十分な配慮をしておく必要があります。これまであいまいな状態だった借地契約の内容について相続を契機に見直して明確化するというのもひとつの方法です。

まずは、弁護士に相談をするようにしましょう。

5、まとめ

今回は、土地を相続するときに把握しておきたい用語について説明しました。

土地の権利には所有権以外にもさまざまな権利が存在します。聞きなれない権利が設定されていた場合には、どのように相続手続きを進めてよいのか不安な方も多いでしょう。

そのような場合には、ベリーベスト法律事務所 松山オフィスまでお気軽にご相談ください。相続手続きから相続税などの税金に関する問題までワンストップで対応します。

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