赤の他人に財産を贈与? 包括遺贈が遺産分割や遺留分に与える影響とは
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愛媛県の人口動態統計によると、平成30年における愛媛県内の死亡者数は、前年比59名増の1万8207名でした。社会全体が高齢化している影響で、相続はますます身近な問題になってきています。
さて、親などが亡くなった際に遺言書が見つかり、「お世話になったから」という理由で赤の他人に財産をすべて「包括遺贈」することが記載されていた場合、残された家族としては唖然としてしまうことでしょう。
そもそも包括遺贈とはどのようなものなのか、自分は一切財産を受け取れないのかなど、多くの疑問点が浮かぶと思います。
この記事では、「包括遺贈」に関して、遺産分割に与える影響や遺留分侵害額請求に関する問題などを中心に、ベリーベスト法律事務所 松山オフィスの弁護士が解説します。
1、遺贈とは?
包括遺贈を理解するためには、まず「遺贈」について理解しておく必要があります。
法律上、遺贈とは何なのか、また、どのように取り扱われるのか、確認していきましょう。
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(1)遺贈は「遺言による贈与」
遺贈とは、遺言により第三者に対して財産を贈与することをいいます。遺贈の根拠規定は、民法第964条です。
(包括遺贈及び特定遺贈)
第九百六十四条 遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。
なお、遺言の効力は、遺言者の死亡の時から発生します(民法第985条第1項)。そのため、遺贈についても、遺言者が死亡した時をもって、遺贈の対象となる目的物の権利義務が移転することになるのです。
また、遺贈に似ている概念として「死因贈与」があります。
死因贈与は、贈与者が死亡することを条件として、受贈者に対して財産を贈与するという内容の契約です。死因贈与の実質的な効果は遺贈とほぼ同じですが、遺贈が遺言により行われる単独行為であるのに対して、死因贈与は贈与者と受贈者の間の契約であるという点が異なります。 -
(2)法定相続人以外に対しても遺贈を行うことができる
遺言者は、法定相続人(配偶者、子どもなど)に限らず、誰に対しても遺贈を行うことが可能です。ただし、相続欠格者は受遺者になることはできません。
そのため、生前お世話になった人や親交が深かった人に対して財産を残したい場合は、遺贈が選択肢のひとつとなります。 -
(3)遺贈は遺留分の制限を受ける
しかし、見ず知らずの他人に対して財産の大部分を贈与してしまうような内容の遺言が残された場合、法定相続人としては、相続に対する期待を大きく裏切られてしまいます。そこで、民法は遺留分という制度を設け、一定範囲の法定相続人の相続に対する期待を保護することとしています。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人のために法律上確保された一定割合の相続財産のことをいいます。
もし遺贈が行われた結果、法定相続人の遺留分が侵害されてしまった場合には、遺留分侵害額請求を行うことにより、侵害額に相当する金銭を補填してもらうことができます。
※遺留分については後で詳しく解説します。
2、包括遺贈と特定遺贈
民法第964条には、遺贈の種類として「包括遺贈」と「特定遺贈」の2つが規定されています。それぞれがどのような特徴を持つ遺贈であるのか見ていきましょう。
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(1)包括遺贈は相続財産の割合を指定して贈与する
包括遺贈とは、受遺者に対して贈与する相続財産を特定せず、相続財産全体に対する割合のみを指定して行う遺贈をいいます。
たとえば、「Aに対して相続財産の3分の1を与える」などの指定方法は、包括遺贈です。 -
(2)特定遺贈は具体的に相続財産を特定して贈与する
一方、特定遺贈とは、受遺者に対して贈与する相続財産を特定して行う遺贈のことです。
たとえば、「Aに対して現金○○万円と、○○県○○市○○町○○に所在する土地を与える」などの指定方法が考えられます。 -
(3)包括遺贈と特定遺贈が異なる点のまとめ
包括遺贈が相続財産の割合を指定した上での遺贈であるのに対して、特定遺贈は相続財産を特定した上での遺贈であるという違いのほか、それぞれの間には以下の異なる点があります。
①遺言書作成後、相続開始までに財産の内容が変化した場合の取り扱い
包括遺贈の場合、遺贈の対象となる相続財産が具体的に特定されているわけではないので、ある相続財産が遺言書作成後に滅失したとしても、受遺者が遺贈を受ける相続財産の割合に変更はありません。
一方、特定遺贈の場合、遺贈の対象としている財産が遺言書作成後に滅失した場合には、受遺者が遺贈を受ける権利を失います。
②相続財産中の債務を承継するかどうか
包括遺贈の場合は、財産・債務のすべてを合わせた相続財産に対して、一定の割合による遺贈を受けることになります。したがって、相続財産中に債務が含まれる場合、受遺者は債務も承継する必要があります。
一方、特定遺贈の場合は、債務の承継が遺贈の条件となっているなどの特段の事情がない限り、相続財産中の債務を承継する必要はありません。
③遺贈を放棄する方法
包括遺贈の場合、遺贈の放棄は相続放棄に準じた手続きを取る必要があります。具体的には、被相続人の死亡および遺贈の事実を知った時から3か月以内に、家庭裁判所に対して包括遺贈を放棄する旨の申述を行わなくてはなりません(民法第990条、第915条第1項)。
一方、特定遺贈の場合には、遺贈義務者(被相続人の死亡後は、他の相続人など)に対して、特定遺贈を放棄する旨の意思表示をすれば足ります。
④不動産取得税
相続財産中に不動産が含まれる場合、不動産取得税の課税が問題になります。
包括遺贈の場合は、不動産取得税は課税されないものとされています。
一方、特定遺贈の場合は、以下の金額の不動産取得税が課税されます。- 土地および住宅用家屋
課税標準×3% - 事務所、店舗等の家屋
課税標準×4% - ※課税標準は原則として固定資産税評価額。ただし、宅地および宅地比準土地に該当するものは、固定資産税評価額×2分の1。
- 土地および住宅用家屋
3、包括遺贈が遺産分割に与える影響は?
包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有するものとされています(民法第990条)。
つまり、包括遺贈が行われた場合には、実質的に相続人が増えるのと同じことになります。当然、包括遺贈は相続人間の遺産分割協議にも影響を与えることになります。
包括受遺者は相続人と同様に、相続財産を相続する権利を有します。したがって、遺産分割協議は包括受遺者も参加の上で行わなくてはなりません。
包括受遺者は赤の他人である場合もありますので、その場合には遺産分割協議がさらに難航してしまう可能性が高くなるでしょう。
4、包括遺贈により遺留分を侵害された場合の対処法
先述のとおり、包括遺贈の内容によっては、法定相続人の遺留分が侵害されているケースもあります。
たとえば、「(法定相続人ではない)Aに対して財産のすべてを与える」という内容の遺言が残されている場合には、遺留分を有する法定相続人の遺留分が侵害されています。
もし他人への包括遺贈が行われ、その結果自分の遺留分が侵害されてしまった場合には、どのように対処すれば良いのでしょうか。
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(1)包括受遺者に対して遺留分侵害額請求を行う
遺留分を侵害された法定相続人は、包括受遺者に対して遺留分侵害額請求(民法第1046条第1項)を行いましょう。
遺留分侵害額請求とは、包括受遺者がもらいすぎている(遺留分を侵害している)遺贈につき、遺留分権利者に対する金銭の支払いを請求することをいいます。
たとえば、法定相続人ではないAに対して全財産を遺贈する旨の遺言があった場合に、被相続人には唯一の法定相続人である妻Xがいたとします。
妻Xの遺留分は、法定相続分の2分の1です(民法第1042条1項2号)。妻Xは唯一の法定相続人ですので、遺留分もそのまま2分の1となります。
しかし、遺言の内容によれば、妻Xは全く相続財産を受け取ることができません。つまり、妻Xの遺留分全額が侵害されているといえます。
よって、妻XはAに対して、相続財産の2分の1相当額の金銭を請求することが可能です。 -
(2)遺留分侵害額請求は弁護士に依頼することがおすすめ
遺留分の金額を計算するに当たっては、相続財産の評価を正しく行う必要があり、一般の方が自力でこれを行うのはかなり難しい側面があります。また、遺留分の問題で相続人や包括受遺者の間に対立が生じた場合、訴訟に発展する可能性もあるでしょう。
このような点を考慮すると、遺留分侵害額請求を行う際には、法律の専門家である弁護士への相談がおすすめです。
ベリーベスト法律事務所の弁護士は、遺留分を法律の規定に則って正確に計算した上で、迅速に侵害された遺留分相当額を取り戻せるように尽力いたします。遺留分を侵害されているのではないかとご懸念の方は、ぜひベリーベスト法律事務所の弁護士にご相談ください。
5、まとめ
遺言により包括遺贈が行われた場合、残された相続人としては、遺産分割協議の中で難しい調整を迫られます。特に包括遺贈により遺留分が侵害されているケースでは、法定相続人としての権利を確保するべく、迅速に対応する必要があるでしょう。
遺留分問題にお悩みの方は、ぜひベリーベスト法律事務所 松山オフィスの弁護士にご相談ください。
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