遺産分割協議をやり直したいとき、知っておくべき4つのこと
- 遺産分割協議
- 遺産分割
- やり直し
遺産分割は、相続人全員が話し合いを行って、話し合いで解決できない場合には、家庭裁判所の調停・審判を行う必要があります。平成30年の司法統計年報によると、松山家庭裁判所においても「遺産の分割に関する処分など」の調停が、237件も行われていることからも、話し合いでは解決できない遺産分割の事案が相当数あることがわかるでしょう。
また、話し合いによって、いったんは遺産分割が成立したとしても、さまざまな理由から遺産分割のやり直しをしたいと考えることもあると思います。遺産分割のやり直しをすることは可能でしょうか?
実は、一定の場合には、遺産分割のやり直しが認められるケースが存在しています。
今回は、遺産分割のやり直しができるケースからやり直す際の注意点まで、ベリーベスト法律事務所 松山オフィスの弁護士が解説します。
1、遺産分割協議をやり直すことはできる?
すでに成立した遺産分割協議をやり直すことができるのでしょうか? 結論からいうと、一定の場合には、遺産分割協議をやり直すことは可能です。
しかし、相続人の中には、遺産分割で取得した財産を第三者に譲渡してしまっているかもしれません。それにもかかわらず、一度成立した遺産分割について、容易にやり直しができるとすると、確定した権利関係を不安定にして、混乱が生じるおそれがあります。
そのため、遺産分割協議をやり直すことができるケースは極めて限られており、例外的な場合に限り遺産分割協議のやり直しが認められています。
2、遺産分割協議をやり直すことができるケース、できないケース
遺産分割協議をやり直すことができるケースを大きく分けると、相続人全員が合意をしたケースと遺産分割協議が無効や取消しになるケースが挙げられます。以下では、それぞれの具体的なケースについて説明します。
-
(1)遺産分割協議をやり直すことができるケース
①相続人全員が合意した場合
遺産分割協議は、相続人全員の合意により成立します。そのため、相続人全員が遺産分割協議のやり直しに合意している場合には、すでに成立した遺産分割協議を解除し、新たに遺産分割協議をやり直すことができる場合があります。
このことについては、最高裁判例でも認められた事案があります(最判平成2年9月27日)。
②相続人の一部が欠けていたり、相続人以外の者が参加した場合
遺産分割協議は、相続人全員で行う必要がありますので、相続人のうち、ひとりでも欠けた場合には無効になります。また、相続人ではない方が遺産分割協議の相続人として取扱われた場合にも無効となる可能性があります。
たとえば、被相続人に隠し子がいたような場合にそれに気付かずに遺産分割協議をしてしまったケースや、養子縁組や認知が無効となったような場合が考えられるでしょう。
③意思能力のない相続人が参加した場合
意思能力がない相続人が遺産分割協議に参加していた場合には、遺産分割協議は無効になることが考えられます。
たとえば、相続人の中に意思表示が十分にできない認知症の方がいるような場合には、その人の成年後見人を選任したうえで、遺産分割協議を行った方が無難といえるでしょう。
④相続人に利益相反がある場合
相続人同士で利益相反がある場合には、遺産分割協議は無効になる可能性があります。
たとえば、父が亡くなり、母と未成年の子どもが相続人であった場合に、母が子どもの代理人(親権者)として遺産分割協議を行うと、母が子どもの利益を無視して自己に有利に遺産分割を成立させてしまうおそれがあります。
そのため、このようなケースでは、家庭裁判所に子どもの「特別代理人」の選任の申し立てをして、特別代理人と母との間で遺産分割協議を行うことが求められます。
⑤詐欺や強迫があった場合
相続人がだまされて遺産分割に合意した場合や、無理強いされて遺産分割に合意した場合には、遺産分割を取り消すことができる可能性があります。
もっとも、詐欺や強迫によって成立した遺産分割協議の後、すでに遺産が何も知らない第三者に譲渡されていたような場合には、遺産分割を取り消しても第三者からは遺産を取り戻すことはできない可能性が高いです。この場合には、詐欺・脅迫行為をした者に対して、損害賠償請求を検討する必要もあるでしょう。
⑥遺産に漏れがあった場合
遺産分割の前提となった財産に漏れがあったとしても、原則として、遺産分割協議のやり直しをすることはできません。このような場合には、やり直しではなく、漏れていた遺産のみを対象として、別途遺産分割協議をすることになります。
もっとも、新たに見つかった遺産が相続財産全体の中でも重要性の高いものであり、その遺産があることを知っていたなら、すでに行った遺産分割協議での内容で合意をしなかったといえる場合には、例外的に無効としたケースもあります。 -
(2)遺産分割協議をやり直すことができないケース
遺産分割協議のやり直しについては、次のようなケースでも問題になりますが、いずれも遺産分割協議のやり直しは認められない可能性が高いです。
①遺産分割で決められた内容を履行しない場合
遺産分割協議では、特定の相続人がすべての遺産を取得する代わりに、その他の相続人に対し、金銭を支払うという内容で成立する場合があります。
このようなケースで、金銭の支払債務に不履行があったとしても、遺産分割協議を解除して、遺産分割協議をやり直すことはできません。
②遺産分割審判が確定した場合
遺産分割協議に無効・取り消し事由があったとしても、遺産分割審判が確定してしまった場合には、それらを主張して遺産分割をやり直すことはできません。
遺産分割審判に不服がある場合には、「即時抗告」という方法によって、審判内容を争うことができ、取り消し・無効事由がある場合には、そこで主張する必要があります。確定後は、再審という方法もありますが、極めて例外的な場合にしか認められませんので、注意が必要です。
3、遺産分割協議をやり直すときの注意点
遺産分割協議をやり直せるケースであったとしても、期限や税金について注意が必要になります。
-
(1)遺産分割協議のやり直しの期限は?
相続人全員の合意によって遺産分割協議をやり直す場合や、遺産分割協議に無効原因がある場合には、遺産分割協議のやり直しに期限はありません。他方、遺産分割協議に取り消し原因がある場合には、だまされたことを知ったときや強迫がやんだときから5年または遺産分割協議が成立したときから20年を経過すると、やり直しをすることができなくなります。
ただ、やり直しの期限がない、もしくは時効まで時間があるからといっても、長期間経過後のやり直しは、難しくなる場合もあります。なぜなら、遺産分割後に長期間経過している場合、遺産がそのまま残っているケースは非常にまれで、通常は、遺産を処分するなどして手元に残っていないケースが多いからです。
そのため、遺産分割協議をやり直そうと考えた場合には、弁護士などの専門家に相談するなどして早めに対処するようにしましょう。 -
(2)遺産分割協議をやり直す場合は税金に注意
遺産分割協議を相続全員の合意によって解除し、やり直す場合には、相続税以外に新たに税金が課税されることがあるため注意が必要です。
相続人全員の合意により遺産分割協議をやり直す場合、税法上は、最初の遺産分割協議によって相続は完了しており、その後のやり直しは「贈与」または「譲渡」として扱われることになる可能性があります。そのような場合には、遺産分割をやり直した結果、各相続人の間で、財産の移転に対して、所得税や贈与税を課税されることになります。
遺産分割をやり直したことによって、思わぬ税金を取られてしまったということのないように、事前に税理士などの専門家に相談するようにしましょう。 -
(3)遺産に不動産がある場合は相続登記もやり直し
遺産に不動産が含まれる場合には、当初の遺産分割協議の後、被相続人から相続人へ相続登記が行われていると思います。
遺産分割協議をやり直す場合には、すでになされた相続登記を抹消し、再度相続登記を行わなくてはなりません。そうすると、登録免許税が発生し、場合によっては不動産取得税が課税される可能性もあります。
4、遺産分割協議のやり直しの流れ
遺産分割協議をやり直す場合の流れは、どのような理由によってやり直すかで変わってきます。
-
(1)相続人全員の合意がある場合
相続人全員の合意がある場合には、当初の遺産分割協議と同様に、相続人全員が集まって話し合いを行い、合意をすることで遺産分割協議をやり直すことができます。
相続人全員が遺産分割協議に合意をしているのであれば、特に争いもないので、難しいことはないでしょう。 -
(2)無効、取り消し原因がある場合
遺産分割協議に無効、取り消し原因がある場合であって、相続人のひとりでも遺産分割につき争っている場合には、遺産分割協議無効確認の訴えを提起する必要があります。
訴訟には法的な知識が必要になりますので、弁護士に依頼をして進めていったほうがよいでしょう。
5、まとめ
遺産分割協議のやり直しができるケースは、極めて例外的なケースです。やり直しができるからと安易に考え、遺産分割協議を成立させると、後悔することになる可能性もあります。そのため、相続手続きをする際には、最初の段階から弁護士に相談するなどして、やり直しをしないで済むような遺産分割をすることが大切です。
ベリーベスト法律事務所では、遺産分割協議書の作成から遺産分割協議のやり直しまで相続に関する幅広いサービスを提供しています。弁護士だけでなく、税理士や司法書士も在籍していますので、税金や登記の問題までワンストップで解決することが可能です。相続相談は、ベリーベスト法律事務所 松山オフィスまでご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
- |<
- 前
- 次
- >|