加害者の任意保険未加入が発覚! 交通事故被害者が取れる対応
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令和5年に松山市で起きた交通事故は、1020件です。愛媛県で令和5年に発生した交通事故の約48%が松山市で発生しています。
交通事故にあってしまい、加害者が任意保険未加入の場合、被害者は加害者から十分な損害賠償を受けられない可能性があります。自賠責保険による補償を受けたうえで、なお穴埋めされていない損害がある場合には、他の手段によって損害の穴埋めを受けられないか検討しましょう。
今回は、自賠責保険と任意保険の違いや、交通事故の加害者が任意保険未加入の場合に被害者が取り得る対応などについて、ベリーベスト法律事務所 松山オフィスの弁護士が解説します。
(出典:「令和5年の交通事故統計(豆統計)」 愛媛県警察本部)
1、自賠責保険と任意保険の違いは? 任意保険の有無の確認方法は?
自動車の運転者が加入する保険は、「自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)」と「任意保険」の2つに大別されます。
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(1)自賠責保険|強制加入、最低限の補償を提供
自賠責保険は、自動車損害賠償保障法第5条に基づき、すべての運転者に対して加入が義務付けられている保険です。
交通事故加害者の無資力によって、被害者が損害賠償を全く受けられない事態を防ぐため、自賠責保険によって最低限の補償が提供されます。
後述するように、自賠責保険による保障の内容は、自動車損害賠償保障法および関連法令によって一律に定められています。 -
(2)任意保険|任意加入、対人・対物無制限の場合が多い
任意保険は、自動車の運転者が任意で加入する自動車保険です。
任意保険による保障内容は、保険契約の内容によりますが、一般的には対人・対物ともに無制限の補償が提供されるケースが多くなっています。
加害者が任意保険に加入している場合、被害者は、自賠責保険によって補償されない損害についても、任意保険会社から保険金の支払いを受けることができます。 -
(3)加害者が任意保険に加入しているかどうかを確認するには?
損害保険料率算出機構のデータによると、令和5年3月末時点における自家用普通乗用車についての任意自動車保険の普及率は、対人賠償で82.6%、対物賠償で82.6%となっています。
(出典:「2023年度(2019年度統計)自動車保険の概況」 損害保険料率算出機構)
つまり、任意保険は比較的広く普及しているものの、運転者全員が加入しているわけではないのです。
加害者が任意保険に加入しているかどうかについて、被害者が調べることのできる制度などは特にありません。
基本的には、加害者に直接確認するか、加害者側の任意保険会社から連絡を受けるのを待つことになるでしょう。
任意保険会社から連絡がない場合は、加害者が任意保険未加入であることを前提として、加害者本人に対して損害賠償を請求する流れとなります。
2、自賠責保険によって補償される損害の内容・金額
加害者が任意保険未加入の場合でも、被害者は自賠責保険から最低限の補償を受けることができます。
自賠責保険によって補償される損害の内容・金額は、以下のとおりです。
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(1)傷害による損害
交通事故によってケガをした場合、「傷害による損害」として、以下の損害が補償の対象となります。
限度額は、被害者1名について120万円です。
損害項目 金額 - 応急手当費
- 診察料
- 入院料
- 投薬量、手術料、処置料等
- 通院費、転院費、入院費、退院費
- 柔道整復等の費用
- 義肢等の費用
- 文書料
- 搬送費用その他の費用
必要かつ妥当な実費
※眼鏡・コンタクトレンズは5万円が限度- 看護料
(入院中の看護料)
12歳以下の子どもに近親者等が付き添った場合に、1日につき4200円(または休業損害として必要かつ妥当な実費)
(自宅看護料、通院看護料)
12歳以下の子どもに近親者等が付き添った場合、または医師が看護の必要性を認めた場合に、以下の金額
① 厚生労働大臣の許可を受けた、有料職業紹介所の紹介による者→必要かつ妥当な実費
② 近親者等→1日につき2100円
※4200円や2100円を明らかに超える場合には、休業損害として必要かつ妥当な実費- 諸雑費
(入院中の諸雑費)
1日につき1100円(または必要かつ妥当な実費)
(通院または自宅療養中の諸雑費)
必要かつ妥当な実費- 休業損害
1日につき原則として6100円(立証資料等により超えることが明らかな場合は、1日につき1万9000円を限度として実額) - 入通院慰謝料
1日につき4300円
※妊婦が胎児を死産または流産した場合は、別途慰謝料を定める -
(2)後遺障害による損害
交通事故によって後遺症が生じた場合、「後遺障害による損害」として、逸失利益と後遺障害慰謝料が補償の対象となります。
- 逸失利益:後遺障害によって労働能力が減少したことにより、将来発生すると推測される収入減
- 後遺障害慰謝料:後遺障害による精神的・肉体的苦痛に対する補償
後遺障害による損害の補償を受けるには、損害保険料率算出機構による「後遺障害等級」の認定を受ける必要があります。
認定される後遺障害等級に応じて、後遺障害慰謝料の金額と、逸失利益・後遺障害慰謝料を合算した限度額が以下のとおり定められています。
後遺障害等級 後遺障害慰謝料の金額 限度額(自賠責保険) 第1級(要介護) 1650万円(被扶養者がいるときは1850万円)
+初期費用500万円4000万円 第2級(要介護) 1203万円(被扶養者がいるときは1373万円)
+初期費用205万円3000万円 第1級 1150万円(被扶養者がいるときは1350万円) 3000万円 第2級 998万円(被扶養者がいるときは1168万円) 2590万円 第3級 861万円(被扶養者がいるときは1005万円) 2219万円 第4級 737万円 1889万円 第5級 618万円 1574万円 第6級 512万円 1296万円 第7級 419万円 1051万円 第8級 331万円 819万円 第9級 249万円 616万円 第10級 190万円 461万円 第11級 136万円 331万円 第12級 94万円 224万円 第13級 57万円 139万円 第14級 32万円 75万円 -
(3)死亡による損害
交通事故によって死亡した場合、「死亡による損害」として、以下の損害が補償の対象となります。
限度額は、被害者1名について3000万円です。
損害項目 金額 葬儀費 100万円 逸失利益 ※亡くなった方の就労可能年数により変わるため、複雑な計算が必要です。 死亡本人の慰謝料 400万円 遺族の慰謝料 請求権者の人数に応じて、以下の金額
1人:550万円
2人:650万円
3人以上:750万円
※請求権者は被害者の父母(養父母を含む)、配偶者、子ども(養子、認知した子ども、胎児を含む)
※被害者に扶養している者がいるときは、上記金額に200万円を加算
3、加害者が任意保険未加入の場合に検討すべきこと
加害者が任意保険未加入の場合、まず自賠責保険から補償を受けることになりますが、損害全額が補償されるとは限りません。
もし自賠責保険の保険金だけでは損害全額に不足する場合には、以下の手段を検討しましょう。
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(1)被害者自身が加入している自動車保険を利用する
被害者が自動車保険に加入している場合、保障内容によっては保険金の支払いを受けられる可能性があります(人身傷害保険、車両保険など)。
詳しい保障内容については、保険契約・約款に記載されています。
保障内容が分からない場合には、保険会社にお問い合わせください。 -
(2)労災保険給付を請求する
その事故が仕事中または通勤中に発生した場合には、労働基準監督署に対して各種の労災保険給付を請求できる場合があります。
労災保険給付の支給要件に該当する方は、勤務先の会社の協力を得ながら請求の準備を行いましょう。 -
(3)運行供用者責任を追及する
加害車両の運転者とは別に、当該車両を運行の用に供する者がいる場合は、その者に対して「運行供用者責任」に基づく損害賠償を請求できます(自動車損害賠償保障法第3条)。
運行供用者に該当する者の典型例は、加害車両の所有者です。
たとえば、加害車両が社用車の場合には、所有者である会社に対して運行供用者責任を追及すれば、損害の賠償を受けられる可能性があります。
4、加害者側と交通事故の示談交渉をする際の注意点
加害者が任意保険に加入しているか否かを問わず、示談交渉を通じて適正な損害賠償を受けるためには、以下のポイントに注意して対応することが大切です。
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(1)損害項目の漏れがないように請求する
交通事故の損害項目は多岐にわたるため、本来であれば賠償を請求できる損害の見落としが発生しがちです。
ご自身に生じた客観的な損害額を漏れなく集計して、その全額を請求できるように努めましょう。 -
(2)加害者側の主張をうのみにしない
加害者(または任意保険会社)は、支払う損害賠償金を少なく抑えるため、さまざまな主張をすることが予想されます。
しかし、加害者側の主張はあくまでも一方的なものにすぎないため、その内容をうのみにしてはいけません。
必ず持ち帰って法的な観点から検討・分析し、適正な損害賠償を獲得するための反論を行いましょう。 -
(3)弁護士に示談交渉を依頼するのがおすすめ
弁護士に示談交渉を依頼すれば、裁判例等に基づき、適正な金額の損害賠償を請求できます。弁護士が損害賠償請求をする場合には、自賠責保険の基準や保険会社が請求する金額の基準よりも高くなることが多い裁判所基準を使用します。そのため、適切な補償を受けられる可能性が高まるのです。
また、加害者側の主張の妥当性を検証することもできるため、不当な示談条件を受け入れてしまう心配もありません。
被害者ご自身が加入している自動車保険等に「弁護士費用特約」が付帯されている場合は、交通事故に関する弁護士費用の大半が保険金によって賄われます。
5、まとめ
交通事故の加害者が任意保険未加入の場合、自賠責保険でカバーされない損害額は、加害者本人に賠償を請求する必要があります。
しかし、加害者には資力がないケースも多いため、被害者自身の自動車保険の利用・労災保険給付の請求・運行供用者責任の追及など、別の救済手段も併せて検討しましょう。
交通事故の被害者が、示談交渉を通じて適正な損害賠償を獲得するためには、弁護士に交渉の代理をご依頼いただくことをおすすめいたします。
ベリーベスト法律事務所は、交通事故被害者に向けた法律相談を随時受け付けております。
加害者側に対して適正な損害賠償を請求したい交通事故被害者の方は、お早めにベリーベスト法律事務所 松山オフィスへご相談ください。
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