交通事故後の示談交渉のタイミングは?症状固定の時期で慰謝料が大幅に変わる理由

2018年04月03日
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交通事故後の示談交渉のタイミングは?症状固定の時期で慰謝料が大幅に変わる理由

交通事故に遭い、治療中に相手方の保険会社から示談金の提示があったけれども、金額に納得がいかない…。まだ、治療中なのに一方的に治療費の負担を打ち切られた…。
交通事故に遭われた方の中にはこのようなお悩みを抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。今後の生活を考えると、不安も大きいでしょう。

しかし、諦めないでください。
症状固定の時期次第で受け取れる慰謝料が大きく変わることがあります。また、弁護士の交渉次第で慰謝料が増額する可能性があります。

今回は、交通事故で治療中に、保険会社からそろそろ症状固定だと言われたら治療は打ち切らなければならないのか、適切な治療を受け、適切な後遺障害認定を受けるためにはどうすればよいかなど、弁護士の視点から、事故後の症状固定とその対応についてベリーベスト法律事務所 松山オフィスの弁護士が解説します。

1、症状固定とは

症状固定とは

交通事故における症状固定とは、交通事故によって負った傷病について「医学上、一般に承認された治療方法をもってしてもその効果が期待できず、残存する症状が自然的経過によって到達すると認められる最終の状態に達したこと」をいいます。

簡単に言うと、怪我などが完治せず、何らかの症状が残ってしまう場合に、その症状が通常の治療法ではそれ以上良くならない状態に落ち着いた時点のことをいいます。
投薬やリハビリなどによって、一時的には症状の改善がみられても、それが一時的なもので、すぐに元の状態に戻ってしまい、長期的に見ると快方に向かっていないような場合も症状固定となります。

2、症状固定が交通事故の損害賠償額に及ぼす影響

症状固定が交通事故の損害賠償額に及ぼす影響

交通事故で怪我を負って治療をしている最中に、保険会社から、「そろそろ症状固定でいいですか?」と言われることがあります。
これ以上治療を続けても改善の見込みはなさそうだから、この時点で症状固定として、痛みなどが残っている場合は後遺障害として認められるかどうかの手続きに移行しましょう、という意味です。

しかし、この言葉に安易に乗ってはいけません。
なぜなら、症状固定となったのがいつの時点かというのは、次のように損害賠償額に大きな影響を与えてしまうからです。

  1. (1)治療費

    交通事故で怪我を負った場合の治療費は、相手方加入の保険会社に損害として請求することができます。
    一般的には、保険会社が直接医療機関に支払ってくれる場合が多いので、費用負担を気にすることなく治療を受けることができます(これを「一括対応」といったりします)。

    しかし、これは症状固定「前」までに限られています。
    症状固定「後」の治療費は、そもそも改善の見込みがなくなった後の治療ということで、損害賠償の対象になりません。
    したがって、まだ治療を続けたい場合に安易に症状固定とすることに同意してしまうと、以後の治療費を支払ってもらえなくなってしまうのです。

  2. (2)入通院慰謝料

    入通院慰謝料は、その名のとおり、入通院に対する慰謝料で、入通院の期間に応じて支払われます。この期間は、怪我の治療期間を指しますから、怪我をしてから症状固定となるまでの期間に限られます。

    そのため、症状固定「後」に通院して治療をしても、前記のとおり治療費が支払われないだけでなく、慰謝料の算定の対象期間にも含まれなくなってしまうのです。

  3. (3)休業損害

    交通事故で怪我を負って治療をしている間に会社を休まざるを得なくなった場合には、その間に支払いを受けることができなかった給与相当額について、休業損害として相手方から損害賠償を受けることができます。
    また、専業/兼業主婦の方が交通事故で怪我をした場合も、家事を労働として金銭的に評価した金額をもとに、治療期間に応じて、休業損害が支払われます(「家事従事者の休業損害」とか「主婦休損」といったりします)。

    この休業損害も、治療期間中、つまり症状固定「前」までの期間に限られることから、症状固定「後」に治療のために会社を休むことがあっても、休業損害の対象とならなくなってしまいます。

  4. (4)後遺障害

    症状固定時における後遺障害の程度に応じて、加害者が加入する自賠責が、1級から14級まで定められた後遺障害が残存したと認定することがあります。
    この後遺障害の等級の認定においては、それまでの治療期間が考慮されることがあります(治療期間が長いのに痛みなどの後遺障害が残るということは、それだけ怪我の程度が重かったということが推認されるからです)。

    当然、その治療期間は、症状固定するまでの治療期間ということになりますから、まだ治療を続ける必要があるのに症状固定としてしまうと、後遺障害の等級認定にも不利益を与えかねないということになります。

3、保険会社から症状固定と言われたときの対処法

保険会社から症状固定と言われたときの対処法

先に述べたように、病院で治療を続けたいのに、保険会社の担当者から言われるままに症状固定とすることに同意してしまうと、その後の治療費が支払われないだけでなく、慰謝料や休業損害、慰謝料の額にまで影響を及ぼす可能性があるので注意してください。

では、保険会社の担当者から症状固定と言われた場合に、本人としては治療を続けたいときはどのようにすればよいのでしょうか?

  1. (1)医師と相談をする

    症状固定とは、これ以上治療をしても改善が見込めない状態になったときをいいます。
    その判断は、実際に治療を行っている病院の医師によって行われるべきであるといえます。
    治療を継続したい場合は、担当の医師とよく相談することが必要です。

    医師と相談する際に、ただ「治療を続けたい」というだけでなく、治療によってどの程度症状が改善しているか、家にいる間の症状はどのような感じかなど、怪我の具合について詳細に説明することも大切です。

    もっとも、保険会社から強く症状固定を主張されると、保険会社と対立したくないせいか、保険会社の主張に従ってしまう医師も少なくありません。
    そこで、状況によっては、別の医師にセカンドオピニオンを求めることが必要な場合もあるでしょう。

  2. (2)自費で通院をする

    保険会社の担当者から症状固定と主張され、これに同意してしまった後であっても、治療を継続することによって症状の改善が見込める場合は、自費で治療費を払ってでも治療を続けることが大事な場合もあります。
    このような場合は、後から治療費を請求しても保険会社が支払いに応じない場合が多いと思いますので、症状固定時期に異議があることについて保険会社にしっかりと主張しておくことが大切です。

    症状固定後の治療は、交通事故なので健康保険が使えず10割負担になると思われている方もおられると思いますが、「第三者行為による傷病届」を提出することで、健康保険を使って治療することができる場合がありますので、病院の先生と相談しておくことを強くお勧めします。

4、症状別の症状固定時期

示談が成立しないまま起訴されてしまったらどうなる?
  1. (1)むちうち(頸椎捻挫)の症状固定時期

    むちうちは、そもそも他覚的所見が少なく、見えにくい障害であるため、症状固定の時期について争いとなることが多い症状の1つです。
    一般的に、保険会社は3~6か月程度で治療を打ち切ろうとすることが多いといえます。

    ただし、前述のように、他覚的所見の少ないむちうちにおいては、治療期間が後遺障害認定の材料の一つとされる場合があるので、痛みが継続している間はできる限り治療に努めることが大切です。

  2. (2)骨折の症状固定時期

    骨折の場合の症状固定は、骨癒合、すなわち骨が癒着して骨折が回復したときです。
    骨折の程度や被害者の年齢等によっても異なりますが、症状固定まで6か月かからないことも珍しくありません。ただし、抜釘をする場合などは1~2年後になる場合もあります。

    関節の可動域制限の障害(機能障害)を生じる場合は、骨癒合後リハビリを経てそれでも可動域制限が残る時点で症状固定となりますし、骨癒合後に、痛み等の神経症状が残る場合も、痛みの回復が見込まれる期間が経過した時点が症状固定となります。

  3. (3)醜状障害の症状固定時期

    醜状障害、すなわち後遺障害として認められる程度の傷跡が残る怪我の場合、一般的には事故から6か月程度で症状固定としますが、レーザー治療等によって傷跡を改善する治療を行う場合もあるため、長期間の治療期間を要する場合があります。

5、症状固定後の示談交渉

症状固定後の示談交渉
  1. (1)後遺障害等級認定

    症状固定したということは、怪我に対する治療の必要がなくなったということになりますから、あとは、その時点でも治癒していない症状について、後遺障害として認められるかどうか、認められるとして何級の後遺障害として認められるかの判断を行うことになります。これを後遺障害等級認定といいます。

    後遺障害の等級認定は、医師が作成する後遺障害診断をもとに判断されます。
    判断を行うのは、損害保険料率算出機構内の自賠責損害調査事務所です。

  2. (2)後遺障害に対する損害賠償

    自賠責損害調査事務所が後遺障害に対する認定を行った場合、これに基づいて損害賠償額が算出されます。
    後遺障害が認定された場合は、一般的に、後遺障害に対する慰謝料、後遺障害によって将来得られるはずの収入が減ったことに対する損害(逸失利益)が損害として支払われます。
    なお、自賠責損害調査事務所が行った認定に不服がある場合は、異議を申し立てることも可能です。

6、症状固定と労災請求

症状固定と労災請求
  1. (1)通勤時の交通事故は労災の対象となる

    業務で社用車等を運転していたときに交通事故に遭った場合はもちろん、通勤途中に交通事故に遭ってしまった場合も、いわゆる「通勤災害」として労災申請の対象となります。
    この場合、被害者は、治療費等を相手方保険会社に請求してもいいですし、労災保険に請求することもできます(ただ、同一の損害について二重取りはできません)。

  2. (2)症状固定時期は変わらない

    労災申請した場合であっても、症状固定の時期は、医師の判断が中心となることから、時期の判断には影響を及ぼしません。
    もっとも、一般的な傾向として、労災により治療費が支払われている場合の方が、相手方保険会社により治療費が支払われている場合に比べて、症状固定時期について長めにみてくれることが多いといえるでしょう。

  3. (3)特別支給金

    労災申請した場合、休業による収入減が生じている場合には、休業補償における特別支給金として事故前の収入を基礎として算定された給付基礎日額の20%相当額を受け取ることができます。また、労災において後遺障害が認定された場合にも、特別支給金が設けられています(14級で8万円)。

    特別支給金を受け取っても、相手方保険会社から損害賠償を受けるときに調整をする必要はない(結果的に二重取りできる)ことから、交通事故が労働災害に当たる場合には、労災申請しておくメリットがあるといえます。

7、症状固定と時効

症状固定と時効

交通事故における損害賠償の時効は事故の日から3年ですから、その前に症状固定を認めて示談を成立させないといけない、と思われている方もおられるようです。
しかし、症状固定によって生じる損害(後遺障害に関する損害)の賠償に関する時効は、症状固定の日から3年とされていますから、慌てる必要はありません。

なお、症状固定前に発生する治療費や休業損害については、時効で消滅しないよう、事故から3年以内に請求しておくことが必要です。
もっとも、症状固定日までの一括対応がなされている場合、治療費や休業損害についても、症状固定日から3年間と解釈されるのが一般的であるといえます。

8、症状固定前に弁護士に依頼するメリット

症状固定前に弁護士に依頼するメリット

このように、様々な事情で、治療中であるにもかかわらず、加害者や加害者側の保険会社が症状固定を認めるように主張してくる場合があります。
しかし、症状固定を認めてしまうと、被害者は、それ以降の治療費が支払われないという問題に直面してしまいます。

このような場合に、被害者自身が、適切な治療を継続して受けられるように相手方保険会社や医師と交渉をするのは容易ではありません。

交通事故で怪我を負ってしまった時点でかなりの負担を負っているところに、厄介な交渉事まで行わなければならないのは気が滅入ってしまうことでしょう。
交通事故の交渉というと治療が終わってからと思われがちですが、症状固定の問題1つをとっても、治療中から考えなければならない問題ですし、これによって最終的な損害賠償額が大きく変わってきます。

治療中の早い段階から保険会社や医師との交渉を法律の専門家である弁護士に依頼することで、被害者の方が治療に専念することができるようになります。
そして、そのことが一刻も早く事故前の生活を取り戻すことや、損害賠償額で損をすることがないようにするための準備もつながります。

最近の交通事故により損害をカバーする保険には、弁護士費用特約が付いている商品が多くあります。
弁護士費用特約があれば、ほとんどの方は自己負担額0円で弁護士へ依頼することできますので、お金のことを心配せずに弁護士に依頼し、自身は治療に専念できます。


もし、交通事故に遭われた場合には、早い段階で弁護士に相談することをおすすめいたします。ベリーベスト松山オフィスでは、交通事故に関するお問合せを承っておりますので、もし、交通事故でお悩みならまずはお問合せください。

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